石間 崇(いしま たかし)さん・絵美(えみ)さんご夫婦
Uターン(東京都→加賀市)
崇さん/石川県加賀市出身。製材業を経て飲食業に進む。金沢市内のイタリアンレストラン勤務を経て、その後横浜、東京でも勤務。2017年に石川へUターンし、能美市にてイタリアンレストラン「イル ボッツォロ」を開店。
絵美さん/石川県能美市出身。
能美の里山エリアから無患子(むくろじ)トンネルを抜けた先にある仏大寺(ぶつだいじ)町は、世帯数わずか10ほどの小さな集落。『遣水観音の霊水』の地としても知られ、名高い名水を汲みに多くの人々が訪れる静かな地域です。
石間さんご夫妻は、そんなのどかな里山エリアで、イタリアンレストランを開業しました。移住の際に感じたことや、移住してみて感じることを伺いました。
■Uターン前、東京の移住フェアにも足を運ぶ
崇さんと絵美さんが出会ったのは、崇さんが木材を扱う県内鶴来地区の「もく遊りん」に勤務していた頃。そこがピザレストランを始めることになり、料理人として入ってきたのが絵美さんでした。その後、崇さんも飲食の世界へ。「この業界で26~27歳は、ちょっと遅めのデビューでしたけどね」と話す崇さん。夫妻は金沢のイタリアンで経験を積んだ後、いったん石川県を離れ、横浜、東京の店でも経験を重ねます。「もともと、いずれは石川にUターンするつもりで、飲食店でのスキルを高めるための上京期間でした」。
崇さんが35歳の2011年に東日本大震災を経験。震災を機にUターンへの意識が高まりましたが、震災以降は仕事が忙しい日々が続き、「結局5年後になりましたね」と振り返るように、40歳で石川に戻ることになります。崇さんはその頃、東京の有楽町で働いており、店からもほど近い東京国際フォーラムで全国規模の「移住フェア」が開催されていたため足を運びました。出展していた加賀白山定住機構のブースで、移住について具体的な相談ができたことがきっかけで、いよいよ移住先探しが本格化しました。
■開業に向け、理想をかなえる物件探し
ご主人の崇さんは加賀市のご出身、奥様の絵美さんは能美市のご出身。物件探しでは、石川県の短期移住体験事業を受託している加賀白山定住機構等のサポートも受けながら、夫妻それぞれの出身地を中心に、いろいろな地域の候補物件を探して来県を繰り返し、何か所もあたっていきました。物件探しを進めるうちに、店舗と住まいの家賃をダブルで払い続ける負担は大きいと考えました。「東京で10数年も家賃を払い続け、そんな生活はもういいやとも感じていたんです」。
そんな中で紹介されたのが、仏大寺のこの場所でした。崇さんは、金沢勤務時代からここの遣水観音水(やりみずかんのんすい)に注目しており、ぜひ使いたいなと思っていたそう。念願のご夫婦自身の店は、バリスタでもある崇さんの思うコーヒーの味などを実現できるおいしい水のある場所で構えることになりました。メニューには、地元産の野菜やジビエなどが並び、この地域ならではの素材を味わうことができます。
■小さな集落に、新しい住民として仲間入り
市街地からは少し離れた立地ですが、徐々にお客様の口コミでお店の評判が浸透していき、平日でもテーブルが埋まってしまう盛況ぶりです。崇さんが取材に応じてくださったこの日も、厨房で絵美さんがてきぱきと次々に調理を進めながら、作業の合間に取材の様子を穏やかな微笑みで見守っておられました。
ここ仏大寺集落では、各世帯の道路沿いに、揃いのシックなデザインの標柱表札を掲げています。新たな住民として仲間入りした石間家にもこの表札が掲げられました。能美市で一番小さな集落に、新しい風が吹き始めているのを感じました。
■移住を迷っている人へのアドバイス
取材の最後に、実際の移住経験を踏まえたアドバイスをいただきました。
「移住を迷っている方も、これから移住を考えている方も、長い人生で都市部の高額な家賃を無理をしながらずっと払い続けることが、自分たちにとっての正解なのか、きちんと考えてみたらいいんじゃないかな。その結果、都市部に残りたいと思う人も、出たいと思う人もいらっしゃるでしょう。本当はこんな生活はツラくて、都市部から出たかったんだという人は、地方で住まいを探してみればいい。値ごろ感のある気に入った物件に出会うことができると思います。そうすれば、人口が過密な都市部に残る人にとっても、結果として良いことだと思うんですよね。」
移住を迷っている方や、今の場所で住みづらさを感じている方は、まずは一歩を踏み出してみて欲しい。そんな思いが伝わる言葉をいただきました。
[お店情報]
イタリア料理 イル ボッツォロ
所在地/石川県能美市仏大寺町2番地
TEL.0761-58-0540
営業時間/Lunch 11:30~15:00、Dinner 18:00~(要予約)
定休日/月曜日(不定休あり)