情報誌「MyPage」バックナンバー
▼巻頭特集-01
地域づくりの新たな展開
はじめに
 
「個性豊かで活力に満ちた地域社会の実現」。わが国の大きな目標であり、また、地域づくりの目標でもあります。「個性豊かな地域」とはどのようなもので、どうすれば実現するのでしょうか。
 答えは用意されていません。その答えを考え、見つけだしていく活動が地域づくりだと言えます。全国各地で様々な取組が行われていますが、先進事例といわれる取組を見ていると、住民の立場が「行政サービスの受給者」としての受動的な立場から、「地域づくりの担い手」としての能動的な立場に変わりつつあることに気付かされます。
 では、「みなさんが地域づくりの主役です」とPRするだけで、動きは自然に起こってくるのでしょうか。人はそれぞれ地域に対する想いを持っていますが、それを地域づくりの力にしていくためには、実際に活動を始めることが必要です。待っているだけ、計画をつくるだけでは、何も起こらないのです。
 また、多様な人々の出会い・交流がなければ、地域の個性は創造されません。伝統的な文化も、最初から存在していたわけではなく、地域への愛着と誇りを持ち、人々が交流することで創り上げられてきたものです。豊かな自然環境も、人々の生活と重ね合わせて見たときに、地域の個性になるものと考えられます。

<プロフィール>
金沢大学大学院人間社会環境研究科教授
 
赤松 俊彦(あかまつ・としひこ)
昭和38年兵庫県生まれ。62年京都大学法学部卒業、自治省入省。平成5〜6年秋田県交通政策課長、県民生活課長を歴任。7年沖縄開発庁、8〜9年福岡県通商観光課長、地方課長を歴任。11年自治大学校教授、13年広島県呉市助役、16年国土交通省都市・地域整備局地方整備課調整官兼内閣官房都市再生本部事務局企画官。18年より現職

01-1
変化する住民と行政の関係と多様な担い手

 地域づくりの主役は、誰なのでしょうか。最初に思い浮かぶのが行政です。しかしながら、人々の価値観が「経済的な豊かさ」から「心の豊かさ」にシフトし多様化していく中、行政が全ての公共サービスを提供することは、質的にも量的にも限界があります。例えば、暮らしの安心・安全の確保、賑わいの創出、環境保護などの今日的課題は、行政のみの力によっては解決することはできません。これまでのように行政に要望・要請するだけでは、地域課題が解決されない状況となってきているのです。厳しい財政状況の中でも、行政が効率的な行財政運営に努め、地域づくりに取り組まなければならないことは当然ですが、さらに、地縁組織、NPO、企業、大学などの多様な主体が「地域づくりの担い手」となり、行政とともに協働することが必要です。行政活動を監視する、行政に意見を述べるということから更に進んで、行政と協働し、自らが地域づくりに取り組んでいくことが必要になってきているのです。
 地域内における担い手の少なさを悲観するのはやめましょう。「地域づくりの担い手」は地域内に限定されるわけではありません。例えば、体験型観光は、観光客という地域外の住民を地域づくりの担い手として取り込む試みであるとも言えます。

01-2
行政との連携

 地域づくり活動を行うに当たって、行政との連携は重要なポイントですが、「自分たちは良いことをしているのだから、行政の支援は当然」という考え方から出発するとなかなか思うような成果は得られません。新たな行政投資を行うためには何かを止めなければならず、また、一つの活動に対しては様々な評価があり得ます。行政に対して批判的意見を述べることも必要ですが、これが行政批判に止まっていては何も新たなことは起こらないのです。行政の支援が活動の前提というのではなく、「行政との役割分担をいかにするのか」という観点から、連携体制を構築していくことが必要です。また、行政としても、多様な主体の連携をコーディネイトしていくことに今以上に力を注いでいくことが必要です。
行政が瀬越青年の家(旧瀬越小学校)を改修、NPO法人竹の浦夢創塾が運営している「竹の浦館」
(加賀市)
七尾の中心部の再生のため、銀行の建物を改修して、ギャラリーとして活用している(株)御祓川
(七尾市)

01-3
担い手間の連携

 多様な主体が「地域づくりの担い手」となり、個々に活動に取り組んだとしても、それだけでは、大きな流れにはなりません。個々の主体の活動には限界があり、また、それぞれの活動の内容や目的が一致するとは限らないからです。地縁団体とNPOとは活動の内容が違いますし、企業や大学などは、通常、地域づくり以外の目的をもって活動しています。
 一方、地域の課題は様々な要素を含んでおり、その解決のためには多面的なアプローチが求められます。地域づくり活動を実のあるものにするには、多様な主体が連携することが必要となります。
 しかしながら、多様な主体が連携して活動することは容易ではありません。連携のためには、活動目標の共有と、それぞれの団体にとってメリットが生まれるような仕組みづくりが必要となりますが、構想策定、連携のための組織作りから先に進まないということもあります。目標づくり、組織作りは重要ですが、地域づくりの連携においては、まずは何か活動を始め、その中で、緩やかな連携を模索しつつ進んでいくことが大切だと思います。

01-4
活動の継続

 地域づくり活動が成果を上げていくためには、一定の期間が必要です。単発のイベントで効果がでるようなことは多くありません。活動は継続してこそ、意味があります。このためには、(1)リーダーの存在、(2)活動資金の確保、(3)住民の継続的な参加が大きな課題となります。
 誰かが上手に音頭をとれば自発的に集まる人はたくさんいますが、自ら言い出す人、つまり「リーダー」はなかなか現れません。しかし、リーダーが現れるのをただ待っているだけでは、何も変わりません。まずは、できる範囲で行動することが必要です。一人でできることは限られていますが、一人ででも動き始めないと何も始まりません。活動の中で、リーダーは育っていくものです。さらに、他の団体のリーダーとの情報・意見交換やリーダーの相談相手となるような人材を確保していくことも大切です。団塊の世代の方々の地域社会への復帰にあたっても、いきなりリーダーとしての役割を期待するよりは、会社組織での経験を活かしたリーダーのサポート役としての役割を期待するのも一つの方法であると思います。
 また、活動を維持していくためには、資金が必要となってきます。活動をされている方々は、活動資金の確保にご苦労をされていると思います。活動のための資金としては、公的助成、寄附などが考えられますが、このような外部資金はその支出の判断が他の団体に委ねられているため、これのみに頼っていては活動が不安定になってしまいます。組織を自主的・安定的に運営するには、自己財源が必要となります。会費収入の充実ということも必要ですが、サービスを提供し対価を得るという「ビジネスの手法を用いた資金調達」ということも、今後考えて行く必要があります。これが、いわゆる「コミュニティ・ビジネス」といわれるものです。全ての地域づくり団体が、コミュニティ・ビジネスに取り組む必要はありませんが、活動の継続・拡充のための一つの手法として検討していく価値はあると思います。
はづちを(加賀市)で提供している朝食。コミュニティレストランとして好評。
 さらに、住民の方々が活動に幅広く参加しやすいようなシステムも必要です。「活動に参加すべきである」という理念だけでは、継続的に参加者を確保することは困難です。参加することが楽しいと思うような仕組みが必要になってきます。地域通貨の活用や参加者からのアイデア採用などのような、住民の活動参加への動機付けを行う仕組みを考えていくことが大切です。


01-5 おわりに

 地域づくりのためには、多様な担い手が連携・協働することが必要ですが、その仕組みは、地域のおかれた状況や目指すべき目標により様々です。行政、住民、地縁組織、NPO、企業、大学の具体的な役割はあらかじめ決まっているわけではなく、具体的な活動を通じて、築き上げていくしかありません。地域づくりの答えは地域の中にしかなく、また、活動するなかで創り上げていくものです。
 地域を取り巻く課題は時代とともに変化していきます。活動によって築かれた連携体制こそが、地域社会が様々な課題を解決していく力、いわゆる「地域の力」となります。「地域の力」とは、財政的な豊かさではなく、人々が自ら知恵を出し、課題に向かい行動していく力であると思います。地域づくりにたずさわっておられる方々の更なるご奮闘を期待しております。
 本稿執筆中に、震度6強を記録した「平成19年能登半島地震」が発生し、甚大な被害がもたらされました。被災された住民の方々にお見舞いを申し上げると共に、一刻も早く、安全と日常生活の確保がなされるよう望んでいます。地域づくりとは、住民の日々の生活の上に成り立つものです。今後個性ある地域として震災から復興していくためにも、災害復旧が可能な限り早期になされ、住民の方々が従来の日常生活を取り戻すことができますよう、国、県、市町の行政をはじめ、関係の方々のご尽力をお願い申し上げます。
総持寺祖院。地震で座禅堂などに大きな被害が出たが、
拝観を再開している。

vol.19 「コミュニティビジネス研究会」へつづく

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