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01-1 ■現場を持ったNPOの成長 高峰◆静岡ではNPOは増えているんですか。 田中◆増えています。でも実力のあるNPOほどネットワークに入りたがらない。現場を持って実践しながら理論を作ってきた連中がいっぱい出てきて、ネットワークを仕掛ける側の技量や考え方よりも実力が付いてきちゃった。県やNPOセンターが指導するという領域を超え、国や県と直接関わり、マスコミも直接動かすようになっている。事業としても、例えば私のところの2つのNPOでもかなりの金額を動かしていて、NPO振興と言ってもはるかに超えてしまっている。 高峰◆NPOといえども、地域の小さな有限会社や株式会社よりも大きい。県レベルで地域づくりと言っている時代ではないのかなという気がしますね。 01-2 ■ローカルのNPOが強い理由 田中◆自分の町村や地元の県だけで議論していても駄目なのは確か。一つの地域だけで完結する時代ではない。 一方で全国組織をやってみて分かったのは、全国視野というのはアンカーを打っていない船みたいな感じで、そこが不満ですね。東京にいると感じないのかもしれないけれど、ローカルで生きて来て全国という視点で動き出すと、静岡のやり方、個性、大切さや良さが逆に見えてきて、全国と話ができる。それを持たないで全国に行ってしまったら、「ここにこんな事例がある」と紹介する、事例紹介業になってしまう。 NPOと民間企業の違いは、確かにNPOも多額のお金を頂くしいろんなところにも行くけど、営業に行くのではなく、NPOの立場としては提案に行っているだけ。ローカルにアンカーを持った上で全国視野を持ち、全国と付き合う。これが我々の強み。 濱◆僕もずいぶん以前から若い人に「必ずフィールドを持とう。糸の切れた凧にはなるな」と言ってきた。糸の長さは、自分が目指すものや求めるものによって、長くも短くもなって構わない。短いと見える範囲が狭いから、広域市町村や都道府県レベルで終わるかもしれないし、長ければ全国を見渡せるぐらい行こうと思えば行ける。 その時に多くの人が間違うのは、糸を切ってしまう。そんな人を多く見てきてるので、僕は糸は多少短めでも、糸の片方をしっかり大地につけたスタンスでいたい。凧は風に抗ってこそ高く飛べるんだから。 シンクタンクもThink onlyタンクではダメで、理論も求められるけど、実践から出てきた知恵を一般化し、また次に展開できる人が求められる。体育会系の人はDoばっかりで、アカデミックな人はThinkばっかり。その両方を行ったり来たりできる人間が必要。
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01-4 ■地域づくりの長老の使命とは 田中◆これを考えたきっかけは、実は石川大会。濱さんが私の紹介を「長老です」って言ったんです。 濱◆そうでしたっけ? 田中◆「あぁ、長老なのか」と思った瞬間、長老ってのは後継者や次の世代をどうするべきなのかって、諸々を考え始めたの。プラットフォームを現実にどう動かしていくか、ローカルと中央の関係をどう整理し、自分たちの立ち位置をどうするか。地域に打つアンカーが強固で重ければ重いほど高く飛べるし、その方が自分たちのことも客観的に見られる。これを急いでやらなくちゃいけない。 高峰◆一番難しいのは「知」をどう伝えるか。整備して形式知化して残すってことでは多分無い。それも必要だけど、より重要なのは新しいものをどう生み出すかについて、どう共感してもらい、伝えていくか。 01-5 ■「思い」を誘発する場をつくろう 田中◆でも私たちがやり始めた時に、「思い」って誰からも注入されたわけじゃないでしょ。不遜にもよく地域づくりの塾なんかで「思い」も教育できると思いがちだけど、刺激・誘発はできても、「思い」は非常に内面的な潜在的なものなんだよね。だから、継承するにはインセンティブをかける場をとにかくたくさん作ろうと。 濱◆触媒ですね。 田中◆そう。若い人はまだそんなにフィールドを作れないとすると、彼らの潜在的な「思い」を発揮できるチャンスを作る。場を与えても最後までダメってのもいて、歩留まりはあるんですよ。でも、「思い」がブワッと湧き出たら…。 ただ物凄く反省するのは、「思い」が一致しているヤツは可愛いくて、良い後継者だなと思うんだけど、自分と違う「思い」を持ってくると、「何を!」ってムッとするところが結構ある。でも60歳過ぎて、これはこれで、すごいキャラクターなのかもしれないって思い始めた。 濱◆遺伝子を活性化させるスイッチを入れる役が田中さんなんですよ。その遺伝子が何をするかは本人の問題だから、「我々とは違うことやるぞ」って基本的に覚悟して仕掛け人をやらないと、非常にツライですよね。 01-6 ■ディベート下手の日本人に内部評価の壁が 田中◆一局に人材が集中してヒエラルキーの中で何かをやるって時代ではなくなり、コミュニティシンクタンク、インターミィーディアリー、プラットフォームって概念が出てきて、そのどれも中央からじゃないし、3つとも水平のネットワークです。でも、組織って目的が強ければ、中に圧をかけていかないと守れない面がある。 濱◆そして、内側に向いたときによほど精神的に強い人間がいないと慰め合いになっていく。仲良しクラブの中で居心地の良い巣を作ってしまい、発展性がなくなる。ある時には内部評価で、切り口を厳しく鋭くしていかない限り、そこから出ていけない。 その時にすごく感じるのは、日本人ってディベートに慣れてないから、ある意見に対して論戦をした時でも、憎しみになっちゃうんです。でも意見を発した人間の個性や人格を否定したわけじゃない。そこを分離させられないと、内部評価で自分や仲間を客観的にきちんと評価するって極めて難しい。 田中◆その通りで、特に私たちの世代って人格否定だと思っちゃうの。日本のシンポジウムも短い講演会だもんね。権威に向かって「あの先生の意見は違うんじゃないか」なんて言おうものなら、後で徹底的に干されるみたいな。 あと、学生たちをハーバードのデザインスクールに派遣した時も、大半がノイローゼになっちゃった。「議論の対象にもならないって烙印を押されるより、君の発表はここに問題があるって言われた方が評価が高い。無視ほど厳しい評価はない」って彼らに言うんだけど、日本の学生は「ダメだった〜」って。 濱◆その訓練を積むことが非常に必要だな、って最近すごく思いますね。 |
01-7 ■実践の強さを外部化でより強固に 田中◆今、NPOが2万5000を超え、NPO的組織は何十万とある。現場を持って自分たちの仕組みを持ち、意識してかどうかは別に、内部評価も行いノウハウも蓄積した組織が、東京じゃなくローカルに出てきている。 ローカル側がものすごく自信を付けてきて、国も政策の中でローカルの現場派を非常に重視してきていて、ローカル派の意見を聞くんだけど、その時に東京の指導センター的な人の意見と合わないんです。現場を持たずに中央で抽象的にやっている人と大きなギャップが出来てきて、ローカル派が実践論で押していくからものすごく強い。 濱◆一方、ローカル派も気を付けなくちゃいけないのは、汎用化ができてないこともある。ある程度、論文とかまとまったものにしていかないと、本当の意味で互角になれないと思う。 田中◆でも、本を書き始めると現場が東京派になるんだよね。その辺がすごく難しい。 ただ、自分たちのやってることって当たり前だと思うみたいで、静岡でも本を書く訳でもなかった。現場の問題を解決するために考え出したことは、コミュニティシンクタンクにしろプラットフォームにしろ、ずっと早くからやってたんだけど。 濱◆本まで出さなくても、ちょっとしたペーパーでも良い。我々で言えば情報誌のMyPageとか。 田中◆それをやらなかったね。やっぱり要るね。 濱◆言葉なんてガソリンより揮発性が高くて、「あの時に良い着想があったな」と思っても「でも何言ったっけ」ってなっちゃう。図形や文字にしておくと、外部化したものが自分の中に入ってきて、自分で納得することもある。 01-8 ■次世代のネットワークづくり 田中◆3人と話してありがたいのは、この年齢になると静岡で今、私に直接文句言ってくるヤツなんていない。居心地は良いけど、新しいものが出てこない。 10年前に初めて会った時、「ある面、自分たちはやってるんだなぁ」と思った一方、「ものすごく稚拙なんだ」って両方の印象を受けて石川から帰ったの。先行者としての自惚れもあったんだけど、「このままだと次の世代が育たないし、私たちに育てる気がなかったな」って。 それからだよ。猛烈に仕組みを作り始めたのは。 高峰◆我々もやっぱり今、そろそろ次の世代に渡すということが一番課題。面白い動きをする若い人たちが地域に育ってきてるんだから、彼らが横にネットワークしていってくれれば良い。ただ、彼らが新しい仕組みを生み出すスキルをどう高めていくかは、一緒に活動して考えるべきかなとは思う。 特に奥能登に関わっていると、相変わらず人口は流出し続けてるし、高齢化も進んでる。そういう過疎地域とどう関わるかがやっぱりテーマなので、どう人材移転をし、あるいは住まないまでも繰り返し関わる人間をどうネットワークしていくか。 01-9 ■場作りと内部評価の循環を継続 高峰◆その時に、住んでいる人たちが光り輝いてないと、そう簡単には都会の人が来ない。僕らにしろ、その地域に関わり続けるには、受けて立つ人がいないと面白くならない。 とりあえず、今いる人たちを魅力的にするための場を作り、きっかけを作る。そして、より面白いものにしていくために、その「場」を演出していく仕掛けを、僕らが機能として持っていないと面白い地域になっていかない。 濱◆ハンコで押したようなやり方では持たない。「おぉ、パターンができた。毎年このハンコ押してきゃ良いんや」って満足したらダメです。 高峰◆これは内部評価の問題なんですよ。自分たちで内部評価をした時に、「これで仕組みができたから、あとは自分たちで出来そうや」って思っちゃう。 濱◆もう一段階深く掘れない。 田中◆暖簾分けで育っていってくれるなら良いんだけどね。 |
01-10 ■日本型オペレーションのNPO 高峰◆NPOがこれだけ増えて、果たす役割が大きくなってくると、事業体として地域で仕事を創出する組織がようやく出てきた。 田中◆そう。今のNPO法も日本の中でいっぱい課題があるんだけど、あれによって本家である公益法人までが、自分たちの社会的使命は何なのかと改めて問われた。これは意味があった。 濱◆アメリカのNPOは、彼ら自身は否定すると思うけど、非常に組織のオペレーションがかっちりしてる。それに比べて日本の組織のオペレーションって非常に柔らかい。ひょっとすると日本は、今までの価値観には無い、全く新しい組織オペレーションを模索しようとしてるのかもしれない。 実際今、3番目のICと呼ばれるインデペンデント・コントラクター(独立専門家)が出てきている。僕自身も「あなた十分そうですよ」と言われてきたんだけど、彼らの活動は全くネットワークによるもので、面白いと思ったら入る。上司の命令だとか、食わなきゃいけないから、といった経営の考え方から外れちゃってる。 01-11 ■社会的ニーズをベースに持つ日本型の特色 田中◆アメリカから輸入されたNPOは、もはや日本の風土で揉まれて日本語化してるのかもしれない。日本が持ってる寛容性と柔軟性で、組織と言いながら組織じゃない。東洋的ファジーさも捨てきれない。 濱◆商人道の「お客に良し、世間に良し、のち自らに良し」って話をアメリカの企業経営者に持っていったら、クビって言われますよ。執行者として採用されてる訳だから、それではもたない。無理だ、って言われる。商人道は彼らの考え方からすると完全にNPOなんです。でも日本では、その考え方が経済の中に入ってた。 田中◆それは今でも残ってて、宗教規範がない日本で、何が規範かと言うと世間。この価値基準に反しないことが道のベース。だから、会社が悪い事した時の記者会見で、日本の経営者は「まず株主に申し訳ない」って言わないでしょ。言ったらマスコミから総スカン食らっちゃう。世間に申し訳ないことをしたって言うの。 NPOの存在も、何が最終的に評価をするかというと、社会的ニーズ、つまり世間。 01-12 ■NPOは新たな関係をつくる 赤須◆今我々は、行政との協働ということで非常に目くじらを立てて、「NPOを下請けにするな」ってやってるけど、鹿児島のある村長さんがNPOの価値をすごく理解した言い方をしてた。 村の財政を改革するために、事業を削る、人件費を削る、NPOにも事業委託する、「村長の給料を削ってもたいした節約にならない」って文脈で話してたから、「NPOへの事業委託は、財政的に収支バランスを取る上ではほとんど意味がないでしょう」って言ったら、そうであると。 経費節減効果なんて無い。それよりもNPOに出すと、人と人とが関わることで新たな関係が生まれる。そこに期待をしてるんだと。 濱◆凄い人ですね。 田中◆そこに気付く人は行政の中に増えてきたね。 赤須◆全部の自治体がそういう風に発想を切り替えてくれると、NPOも喜んで協力するよね。 田中◆私たちも、何千万って規模の事業を受託するようになると「コンサルとどこが違うんだ」となる。国交省のある所長が、NPOで受託しろってしきりに来るんで、「こんな大きな仕事やれない」って断ると、「NPOがやれば新しい可能性がそこから生まれ、特にローカル系のものは地域に残るでしょ」って。 |
01-13 ■地域に生き続ける仕組みづくりが課題 田中◆コンサル業は終わるのが使命。NPOは地域の中に生き続けることが使命。業務によって違うけど、「終わったら損ってものはNPOが受けろ」って言うんです。もし技術的なものが足りなければ、あなたたちがコンサルを作業班として使いなさいと言う訳。 それで、社員2000人くらい抱えてる、今まで私らが足元にも及ばなかった土木コンサルを作業班で使ったら、その作業班も「こういう時代だ」って言い始めた。 地域に近くて、いろんな人知ってて、密着してて、継続できるというNPOが持つサービス力に対価を払う。さらに技術力というサービスもくっつければ、すごく大きな仕事がローカルでもできる。そういう仕組みを、国で工夫していこうって話になった。 まだ契約としてうまくいかないのは、熱心な所長はそんな話をするけど、人が代わるとまた変わる。それを一つのガイドラインの中でやれるようにと、来年の道路政策の中に入れ始めた。これができたらローカルのいろんな計画策定が、飛躍的に変わってくる気がする。 高峰◆今の話は、年度末で仕事を完了させて「ハイ、さよなら」っていう、行政側の仕組みも変わらないとダメですよね。せっかく地域住民と議論をしながら整理して積み重ねてきて、「次の段階はこれを実行するんですよ」って話をしてても、その先は違うところに発注されて、誰がやるか分からない。 田中◆プラットフォームを作ったのは、それをやられ続けてきたから。作っておけば、事業は単年度で終わっても年々そこに入ってくる。今のところ、その仕組みが見事に動いてる。 01-14 ■地方分権は地域からの政策提言で 高峰◆行政の仕事の出し方って話は、地方分権が実現されていく上でも非常に重要だと思うんです。国から出てくる政策は、地域でモデルプランを作れって方向になってきてて、地域にはそれを受けて立てる状況が要る。 理想は国が言う前に、地域が県単位なり北陸エリアで新しい事業を実験し、それが「面白い」ってなれば国が採用して全国展開するみたいな、新しい政策の動かし方を地域自らが積極的に作って仕掛けていくこと。 住民が生活に本当に必要なものを、行政職員も入りながら組み立てていって、それで初めて「地方分権の政策提案」って言えるんだと思う。 田中◆ただ、県や市町村を飛び越えて、国が地元の団体に直接オファーするようになってきて、直接国と付き合ってみて分かったのは、事業をやるときの安全率は市町村に行くほど低いってこと。 国の政策は実験性のものが多いから、6〜7割成功すればOK。それだけ実験的なものも出すけど、ある程度の失敗は読み込んでくる。でも住民に近くなるほど余裕はなくて、10割の成功を求めないと批判の対象になる。 高峰◆その時に、地域の自治体職員にどう関わってもらうかを意識しないと、職員の政策形成能力が高まらない。地域が抱えてる最大の人的資産である彼らにどれだけ能力を高めてもらい、価値を生み出すような仕事をしてもらえるかが、地域住民にとって重要な課題だと思うんです。自治体職員の政策形成研修をやらせていただいて、一番思ったのはそのことです。 彼らが価値を生み出してくれないと、住民は大枚税金を投入して雇用してるわけですから、すごく無駄なんです。そこも考えていかないと、本当に地域をプロデュースしていくって話にもならない。 濱◆その通りですね。よく分かります。 01-15 ■地域プロデューサーに望まれるソフト力 赤須◆政策の出し方は、確かにもう少し市町村に工夫して欲しい。それで我々は、新しい政策の要件として、部局横断的で、持続可能性があり、そして市場を創出するってことを提案し、ここ2年研修をやってきている。 濱◆一言で言えば、地域経営ができる職員じゃないとダメよ、って話です。 田中◆地域プロデューサー的な人間って育ってきてるけど、まだダメなのはお金を生み出せないこと。最後のお金の交渉になると、今の40代世代はまだダメ。 高峰◆今までは、とにかく駈けずり回って金を取ってくる人が仕事が出来るという評価だったんです。中央からでも県庁の中からでも、「こういうテーマだったらあそこに行って取ってこれる」ってネットワークを持ってることも必要なんだけど、その前にソフトが必要。 本当に社会を変えようとか、地域の人がより暮らしやすい状況を作ろうって時に、それを組み上げる力があれば、国や県がそれに応じた事業メニューを用意して、試しに予算をつけてくれるようになってきている。 |
01-16 ■行政参加のフィールドづくりを民が担う 高峰◆だから、住民主導で仕掛けていく場合にも、行政にも必ず議論の場に入ってもらって一緒にやる。で、行政はどこを担ってくれるのかと、常に対峙しながらやっていかないとお互いが高まっていかない。 田中◆でもやっぱり行政って「立場」があるんですよ。知事が「勇気を持ってチャレンジしよう」なんて言ったって、失敗したら議会が叩き、マスコミが叩くんだから。 要するに、糊代が少ない行政に向かって「チャレンジしろ」って言ったって酷。だったらむしろ、行政が責任で住民の意見を入れなくちゃいけないって時に、住民が主で始めて、行政が後で参加する。 実際考えると、NPOが領域とする部分って、かなりの部分行政参加ですよ。だったら「行政が出てくれない」って文句言う前に、行政が出てくるフィールドをまず自分たちが作る。そうすれば「この程度ですよ、安心ですよ」ってことで、行政参加が可能になる。 高峰◆そういう活動をする団体を地域の中にどんどん増やしていくことですね。 01-17 ■「協働」と一体を間違うと不満を生む 田中◆さっきもチラッと出た日本的な良さって「縁側」の使い方が物凄く上手いことなんだよ。だって、いくら協働と言ったって、行政の本座敷と民間の本座敷にはお互い入れない。でも、「縁側」の曖昧な空間の中だったら一緒に手を組める。座敷に入れるほどじゃないけど、それぞれの領域は認める。 日本の建築も同じで、ふすまって聞こえるし衝立だって見えるんだけど、物理的に見えなくしたり防音壁にするんじゃなく、付き合いのルールとして見えないこと、聞こえないことにしてる。 協働と一体は違うんだよね。一体は渾然一体だけど、協働は縁側でジョイントして、違う領域がくっ付こうってこと。これを間違えると無理がある。民間が行政と組むときに、「なんで俺たちと一体にならないんだ!」って言ったり、両方が不満を言ってぶつかり合ってる所って、結構あるんだよ。 これはネットワークづくりや異業種交流や、観光地を作るときにも物凄く当てはまる。由布院や黒壁が成功したのは、誰でも来られるっていう人の縁側と空間の縁側を、観光地が持ったからだと思う。縁側が持ってる効用って、日本人の最大の知恵のような気がするなあ。 01-18 ■多様を認め合ってこそネットワーク 濱◆行政側に対して住民側やNPO側から、「こんなに良いことやってんのに、何で分かんないんだ」って批判が出てくると必ず言うことにしてるのは、行政はがんじがらめのチェック機能が働くという宿命を持ってるということ。「僕らは“良い”と思う人が2人3人になった瞬間動けるけど、行政はその人が“良い”って思っても、上が認め、議会が“良い”って言わないと動けない、っていう元々の宿命があるんですよ。それ分かって言ってますか」って必ず言うの。 田中◆多様を認めるってことは、言ってて自分でもうまくいかないんだけど、人を認めて初めてネットワークも存在するんだよね。日本はある時期から多様を認めなくなって、単一になった。それをもう一回見直そう。 |
01-19 ■自分の地域に憧れを持とう 赤須◆ネットワークに関して言うと、地域の自立と自律も議論されるべきかな。従属を対義語に持つ「自立」と、他律を対義語に持つ「自律」の違いの問題。 田中◆地域がネットワークを広げる時に、自己をコントロールし、自分を律して多様を認めていく。 濱◆お金の面だけでなく、自分の生き方に対する決定権を持つ事も自立だと思う。ビジョンを自分で立てて、「このビジョンを持って自分でやっていくんだ。他人から押し付けられた価値観で従属して生きていくんじゃないんだ」という価値観は、意識の問題としての自立。むしろそうじゃないとこれからダメだと思う。 去年の冬ソナ現象で、日本人はあの地域に憧れを持って大挙して押しかけた。でも実は、先に韓国で日本映画の影響による小樽ブームがあって、韓国の人は小樽に憧れて、小樽に押しかけて来てる。 要は、憧れられる地域になるってことが大事なんです。自己を魅力化し、自分の地域を魅力化する。これは、住んでる人にとっても周りの人にとっても大事。憧れられるから継続的な交流が生まれるんであって、憧れがないところは一回行ったらもう沢山。Sightseeingの限界は、ベースに憧れがあるかどうか。対等に憧れがないと、交流はお互いに続かない。 日本人って自分の評価を凄く低くするでしょう。謙遜としては良いけど、本当に自分までそう思っちゃったらダメで、この地域に魅力を感じてくれる人をどうやって増やすかって考えるときには、自分自身がどれだけ信じられるかが一番大事だと思う。 01-20 ■プロが責任を果たせる基盤づくり 田中◆コーディネーターがその中で何を果たせるかを考えると、プロ・アマの技量の違いに対して向き合う必要が出てくるよね。 付き合う相手って地域の人で、要するにプロで無いアマチュア。その付き合い方として、全国大会でもこれまでプロとしての責任や技量を議論してこなかった。むしろプロ性を持たずに、良い意味でも悪い意味でも地域の方と同化してその中で盛り上がっちゃたところがある。 でも、そろそろ地域づくりにプロとして関わる領域の責任の果たし方をはっきりさせた方が良い。別にプロが上位に立つんじゃなく、主役は向こうなんだけど、我々コーディネーター的な立場の人間が何で貢献できるのか。貢献するためにどうやって技術を高めるか。これをもう少し真面目に考えないといけない。 その時に、その役割を持ったプロのインターミィーディアリーが、ある意味安心して継続的に地域に関われるように、行政のお金の出し方、契約の仕方の仕組みを作らないと、実は継続はできない。 濱◆それは僕らの長年のテーマです。 田中◆どういうルールで契約をするのか、どんなガイドラインに沿った委託関係を結んでいくのか。中間支援組織やコーディネーターというものをしっかり認め、その活動費に対するコストを行政側がどうやって払うのかというルールが出来てない。 地域づくりのプロが、自分たちの技量を発揮しながら安心して地域と取り組む基盤を作るために、僕はこの制度を実験的にでもいいから作るべきだと思う。 協働のプロデューサーの役割を一つの制度として位置付けて、そこにどうインセンティブをかけたら本当に動けるのか、制度提案してみれば良い。 01-21 ■仕組みの主体も見直しの時期に 田中◆再開発事業のコンサルさんも似てて、はじめは成功報酬だったのか、ものすごくあやふやな立場だったし、実際に何人も心労で死んだ。で、それじゃいけないって準備組合の段階から対価を払う仕組みを作ったんですよね。要するに、同じようにコーディネーターに対してどうするか。 ただ、日本の場合、社会的なインターミィーディアリーのものに対して、なかなか民間企業が寄付金出して応援してくれるみたいな社会的風土が無い。寄付が集められない。税制もない。自分で財産も無い。でも必要だとすれば、やっぱり税金を払ってる行政がやってくれない限り、今の協働のコーディネーターが安心して仕事ができる基盤はできないんですよ。 それができない限り、個別の団体がいくら活発にやったって社会の中の一つの動きにならないし、単独でバラバラにやっても効果が薄い。 高峰◆そういう仕組みを作るのが、県レベルなのかどうか。場合によっては国レベルである必要があるんじゃないか。実際に、複数の県にまたがって仕事をしたり、全国エリアで地域をつなぐ活動を継続的に行うことも必要になっているから、石川県でというよりも、国レベルで仕組みを作って、継続的に派遣するという話の方が現実的に良いなと思ってるんです。 田中◆今のと全く同じ話を、来年度の道路政策の中でしてるんです。繋ぎ役の人たちの支援、仕事をしてもらう対価をどうペイしていくのが良いか制度化できれば、と研究会をやってきて、ガイドを作るところまでは来た。 だから、そこが重要だということに、そろそろみんなが気付き始めてるのは間違いない。 濱◆みんなじゃなくて、国土交通省が一番進んでます。 田中◆何だろうね。やっぱり現場に一番近いってことかな。 濱◆そうです。現場を持ってるからなんです。 田中◆土木屋さんって、道路を作っていく時に地主や地権者、いろんな人がいる中で、利害や欲望といった人間の素の部分と付き合ってる。だから、いろんな省庁の中では県より進んでる。 濱◆市町村職員の政策形成の授業を我々この3人で分担して持ってるんだけど、ここで見てたら土木系の職員が飛びぬけてる。説明能力が高い。素の人に現場で分かりやすく説明する時に、何が必要か分かってるんですね。 01-22 ■行政と民間の間を埋める役割の必要性 田中◆コーディネーターは通訳だね。行政の言い方と住民とでは言語が違うんだということで、通訳をする。 濱◆それと、行政の方から聞いた面白いたとえ話で、民間は川に浮いてる船で、行政は岸から見てるって言うんです。「おーい、何が要るんやー」「米くれー」「よーし、分かった」って岸から投げる訳ですよ。ところがそれがうまく届かなかったら、行政は「ちゃんと取れ」、民間は「ちゃんと投げろ」と。その時に行政は、立場があるから絶対水に入ろうとしない。 でも我々コーディネーターは民間人ですから水に入れる。途中にボトッと落ちた米俵を担いで舟までヒョコヒョコっと歩いていって、ガサッと舟に入れてやって、「これでちゃんとやれよ」と。たまに舟に乗らざるを得ない場合もあるけど、行政はそもそも乗れない。それができる人間が必要だって話を、行政の方がしてた。 田中◆時々、米担いで川の中に入ってくれる人がいると、組織の中では変わり者って言われて出世しない。 高峰◆出世しないから途中で辞めて、自分で商売始めたり。 田中◆何人かいるよね。 でも結論めいて言うと、NPOで僕らがやる地域づくりの領域って、かなりの部分が行政参加で良いと思う。その方がうまくいく。 高峰◆それで良いですよ。そのための場を僕らが用意していく。 田中◆地域づくりって公空間をやることだから、行政もある面参加しないとね。特に我々が今関わってる道路なんか、私の空間って無いんですよ。どうしても公が絡んでくる。どうせ行政が入るんなら、行政参加の方が彼らは安心して入ってくる。地域づくりって大半そういうことですね。それと「縁側」を組み合わせれば浮く。協働ってそういうことですよ。 |
vol.17 「団体紹介」へつづく | |
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