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◆住宅地の景観に溶け込むグループホーム
GH菜の花・金沢は金沢西部の郊外の住宅地にあります。住所を頼りに行きましたが、なかなか見つけられず、近所の商店で場所を聞き、ようやく発見しました。車で何度もその前を通っていたのに、まったく気づかなかったのです。認知症高齢者グループホームと聞き、リポーター自身がコンクリートでできた施設をイメージしていたため、見つけられなかったのかもしれません。緑の生垣と花壇のある、普通の住宅のようなたたたずまいで表通りに面して建ち、住宅地の景観に溶け込んでいました。
認知症高齢者グループホームとは、要介護1以上の高齢者が5〜9名の少人数で一緒に住まい、家事などをスタッフと共同で行うもの。家庭的な暮らしができるところに特徴があります。周囲に溶け込む普通の住宅のようにしたのも、家庭的な雰囲気をつくるためではないでしょうか。
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◆南向きの居間と北向きの個室の理由
GH菜の花・金沢は6人棟と9人棟とで構成されています。どちらも広い居間と厨房を建物の中心に置き、その周囲に高齢入居者の個室を配置しています。居間は南向きの明るいスペースです。居間から広い庭が見え、木々や草花が季節を感じさせます。入居者はいつも居間に集まり、一日中過ごせる間取りになっています。 個室は6畳間、高齢者にはちょうど良い広さです。あまり広いと家庭的な雰囲気がなくなるので、この広さにしたといいます。北向きにしたのは、お日様が恋しくなって居間に出てくるように、との配慮から。 ここにはGHの造りかたのノウハウがいっぱい詰まっているようです。トイレの入り口には「便所」とはっきり書いてあります。カタカナ表記やおしゃれなマークでは、高齢者には分からないとの、現場の経験に基づいています。
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◆事業収入1億円へのプロセス 菜の花は平成9年9月に民家を借りてGHを始めました。最初の1年間は入居者は1名でした。GHが知られていなかったこと、私設なので利用料金が高いことなどがその理由です。この辛い1年が岩田さんを鍛えたと言います。 翌10年はNPO法人設立のために奔走し、11年4月に石川県で第1号のNPO法人となります。法人化しても経営は安定しません。が、活動の意義を認められるようになり、全労災から助成金をもらいます。それを含めても11年の事業収入はわずか400万円でした。 平成12年は金沢市からの事業委託で幕を開けました。公的支援のおかげで利用料金を下げることができ、利用者は6名に。同年4月に介護保険制度がスタートし、菜の花はその指定事業者になります。この年の事業収入は約2800万円。 平成12年は自前の建物を造るための活動を始めました。日本財団に助成金を申請したときは、金沢市長の副申書を添えました。結局、同財団の助成金はもらえませんでしたが、金沢市がいわば「推薦状」を書き、応援してくれたことがありがたかった、と岩田さんは言います。
新しいGHの建築資金は石川県と旧社会福祉・医療事業団の融資を受けることにしました。規模も9人棟のみに縮小しようとしていたときに、朗報が飛び込みます。日本自転車振興会の助成が決まったのです。こうして9人棟と6人棟の2ユニットのGH菜の花・金沢が出来ました。岩田さんが「NPOでもこんなに立派な建物を建てられるようになったんよ」と述懐するのは、このような経緯があったからです。平成14年度の事業収入は1億円を超えました。
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◆七尾のグループホームひかりを共同運営
七尾のGHひかりは、立ち上げのときに岩田さんに相談をしました。ちょうど菜の花・七尾を計画中であったところから、共同で建物を造ることになりました。
建物は七尾の城山運動公園に近い後畠町の住宅街にあります。瀟洒な洋館風の構えで、1階はGH菜の花・七尾、2階がGHひかりになっています。平成14年11月から営業を開始。平成14年度の事業収入は約800万円。利用者は6名、スタッフは常勤2名と非常勤3名の構成。常勤の吉村嘉子さんは看護師さんからケアマネージャーになった方。同じく常勤の山田益弘さんはヘルパー2級、福祉の専門学校で学び、ここに就職しました。 入居者はここで暮らしながら、近所に散歩にでかけたり、フラワーアレンジメント教室などを楽しんでいます。福祉車両は日本財団から寄贈されたもの。入居者が病院や買物に行くときに使います。
GHひかりとGH菜の花・七尾は、運営する上で別々では不便なこともあり、今年(2004年)の夏には統合される予定です。
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◆企業が施設を建て、菜の花が運営する協働関係
岩田さんは民間企業と提携してGHをつくる、新しい試みも成功させています。GH菜の花・七尾、GH羽咋川(羽咋市)は、金沢の本陣不動産が建物を建て、NPO法人菜の花がGHを経営しています。資金を持たないNPOの代わりに、民間企業が初期投資をし、ノウハウを持っているNPOが経営し、家賃を支払うという提携です。
NPOと企業との協働について、NPOが企業から貰うばかりでは関係が長続きしない、ギブ&テイクにすべきであると、岩田さんは言います。
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◆増えていくグループホームとNPOの課題
県内のGHの数はすでに50を越えています。運営母体もNPO法人だけにとどまらず、社会福祉法人、医療法人、有限会社、株式会社と広がりを見せています。ある住宅会社のHPには「アパート経営に代わる土地有効利用として土地所有者の方々に強くアピールしていきます」とあり、GH造りに意欲を見せています。 規模が小さすぎて、企業では採算が取れないとみなされていたものが、すっかり様変わりしました。NPOがマーケットを開拓したといって良いでしょう。 その一方で、GHの成功を見て参入してきた後発事業者が、GHの良さである「家庭的な雰囲気」をつくることができるか、懸念する声もあがっています。
NPOの理事長の個性が色濃く出ているGHにしたい、と岩田さんは言います。GHの仕事の隅々まで、身体で覚えているNPOの理事長がやるのだから、高齢者に本当に喜んでもらえる介護ができると語ります。
駆け足で成長してきた菜の花は、今、踊り場にさしかかっているようです。今年(2004年)の夏にはひかりを田鶴浜に移転しますが、その一方で、地域づくりにも力を入れなくてはならないと岩田さんは言います。
GHに対する地域住民の理解はまだまだ足りません。認知症高齢者がそこに何人も住まうとなると、火事や徘徊などを心配する地域の人も居て、地域住民が必ずしも喜んで受け入れてくれるものではないようです。町内会の行事に職員が参加し、やがては、入居者も参加する。GHのありのままの姿を地域の人たちに見てもらうようにしよう、と岩田さんは考えています。地域の福祉を地域の人たちが担う時代が、そこまで来ているようです。
GH菜の花・七尾に入居している高齢者は、部屋の中から道を通る人をながめながら一日を過ごすといいます。通りかかるご近所の人も、なんとなく高齢者の様子が分かるようになります。こうしてGHは自然に地域に溶け込んでいくのかもしれない、と思いました。
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