北陸ツーリズム学校
開校講座[講義録]-2
平成15年12月13日(土)、14日(日)


事例報告 楽しみ、生きがいのツーリズム

 講師:中山 ミヤ子(なかやま みやこ) 農家民宿「舟板昔ばなしの家」経営
大分県安心院町生れ。20年前まで大規模な養蚕農家、現在は畜産と米主体の農業を営む。平成8年3月より農家民宿「舟板昔ばなしの家」を始める。平成13年度より九州ツーリズム大学講師。大分県安心院グリーンツーリズム研究会の中心的メンバー。
舟板昔ばなしの家では炭焼き、草木染め、コンニャク、豆腐、そば打ち、うどん打ち、牛飼い等、多彩な農業体験が年中できます。客室はあら壁の二階建てで、周りは古い農機具に囲まれ、夜は "いろり" で昔ばなしを楽しみます。 夏は蛍が飛び、朝は牛のなき声と小川のせせらぎの音で目覚める静かな所。 井戸水をつるべで吊って、五右衛門風呂をマキでわかして入れます。

[さびしい町に笑顔がもどった]
 安心院のグリーンツーリズムが始まって8年目、その最初の頃から農家民泊をやっており、私は現在64歳です。
 役場や会長さんから声をかけられた当時、周りを見回すと田んぼの三分の一は減反。農機具は高い。それなのにお米は安い。このままだと農業をやる気がわかず、でも捨てるわけにもいかずという、面白く無い農家の嫁でした。ちょうど両親を見送り、一人娘を嫁がせた矢先で、ちょっと役目が終わった感じでした。
 安心院は小さなまちです。10年前はブドウとスッポンのまちでしたが、高齢化でブドウ畑も年々荒廃園になっています。「何てさびしいまちだなぁ」と常々思っていましたが、随分変わり、女性に笑顔が戻ってきたのではないかと思います。

[日本にもう少ないよ]
 最初はほんの少しのお客さんでしたが、毎年、倍、倍で増えました。一番増やしてくださったのは、ソムリエの田崎真也さんと脚本家の内館牧子さんです。それまでの3年間は、「何でこんな面白くもないまちへ、皆さんいらっしゃるのかな」と、ずっと感じておりました。
 お二人がひょっこり来てくださった時、私はその方たちが見えると知りませんでした。ビックリ仰天して「何でこんな何にもない所へ」と聞きましたら、「何で何にもないんだ。菜の花も咲いている。ツクシもレンゲもある。まん中に草が生えてる農道もある。家の周りには小川が流れて、メダカもいる。こんなに自然のいっぱいあるところは日本にもう少ないよ」と言われました。


[ありのままで肩を張らず]
 私はそのとき、はるばる東京あたりから訪ねてくださる理由が初めて分かりました。「レンゲや菜の花が潤いになるのなら、私も肩を張らずに毎日やっていこう」と、ほとんど素顔でエプロン姿のままでやっています。
 本当に古い見窄らしい農家です。稲の掛け干しの足をそのまんま片づけないで家の周りに積んであります。私の家は捨てるのが嫌いで、田んぼで牛を使う鋤も、3、4種類、まんまにしてあります。「こんなに集めるの大変だったでしょう」とおっしゃいますが、代々使っていた農機具も捨てなかったばっかりです。これが現在、とても目新しく思われるらしい。「土の出てる粗壁がまた珍しい」と、日本中の有名な建築家の方たちが見に来られます。何が幸いするか分からない人生を、今、送っております。

[手づくり野菜の田舎料理で]
 お客さんは、本当は一週間に二回か三回受けるのがいいところです。私のうちはもう、初めてのお客様はほとんどお受けしていません。安心院では、二組いると十分お話ができないからと、絶対二組受けない決まりになっています。
 そして、自分の家でできた野菜、お米を使って、自分の手で作って、皆さんで一緒に食べようというやり方です。お豆腐も、自分の畑でとれた無農薬の大豆を使い、お味噌も自分のところでできたお米で糀を蒸して、愛情をいっぱい込めて作ります。皆さんとても感動して、ちょっと不味くても「大豆の香りのする味噌汁は美味しい」と言って食べてくださいます。


[毎日楽しく幸せに]
 日本中の方たちが来られ、私にない知恵を授けてくださいます。本当なら私が旅費を使って教わりに行くべき所を、日本中、ときにはイギリスやアメリカの方が、宿泊費を払って教えにきてくださいます。毎日こんな幸せを楽しんでいて、「これでいいのだろうか」と不安に思うことすらあります。
 私は近くから嫁いでおり、本当に井の中の蛙でやってきました。夜寝ていても、蚕が小さくなっていく夢を見たりが多ございました。でも、グリーンツーリズムは、私に悲しい夢を見せたことが一回もないんです。毎日が本当にルンルン気分です。毎日遅くまでよく喋り、よく飲んで、10kgぐらい幸せ太りをしました。冬はカップ酒、夏はビールを飲み交わし、皆さんと楽しんでおります。
 昨日、でがけにハガキが届きました。「先日は大変ありがとうございました。心が洗われるということを、初めて実感いたしました。」毎日のようにこういうお葉書やお手紙が届きます。

[こころの洗濯]
 安心院にはとても大きいことを思い立つのが好きな会長がおりまして、この農家民宿も「会員制ならよかろう」と、長いことモグリでやっていました。法律を緩和して、誰でも民宿ができるようにしてもらいたい、これが私の思いでした。安心院は今、バカンス法を提出しております。1年や2年でできるとは思っておりませんが、法が成立しますとヨーロッパ並みの旅行ができるようになるかと思います。バカンス法を応援してください。
 私は、ただお金のためにだけやっておりません。安心院の場合は「こころの洗濯」と銘打ってやっています。都会の方が本当に喜んでくださいます。


[安心院のお母さん]
 我が家に昨年800何十人いらっしゃったうち、一番多いのが近くの福岡市の方でした。次が東京です。宿泊費は5000円ですが、旅費がすごくかかるのに、とてもたくさん来てくださいます。「せめて2泊以上しないと、なんと旅費がもったいない。1泊で帰るなら、もう来なさんなよ」って、いつも私は申し上げております。
 来てくださる方は、皆さん親戚です。それ以上になって、「安心院のお母さん」と呼んでくれる方も、日本中にいっぱいいます。

[地域の子どもたちにも]
 都会の皆さんがこれだけ喜んでくださるんだから、地域の子どもたちにも喜んで欲しいと、周りの小学生、中学生、高校生を無料で受入れています。私は57歳にして初めて安心院の良さが分かりましたが、今の子どもたちには安心院の良さをもうちょっと早く分かってもらおうと思っています。先だっても小学5年生が、こんにゃく、おうどん、おにぎりを作ったりして、それでも感動して帰りました。
 そして、高校・大学と外へ出ても、何かありましたときに、「ああ、ちょっと安心院に帰って来よう」と思ってほしいなあというのが、私の願いです。


[心が病んでいく日本]
 私の家に来られる精神科のお医者さんは、「今の日本はどうかなってるよ。安心院のようなやり方はとても大事だよ」とおっしゃいます。リストラに合った人、合わせた人、残った人、その家族も、非常に心を病んでいるとおっしゃっていました。そういう方たちをここで例えば1週間ずつ過ごさせれば、きっとみんな元気になるよ。と言われました。
 半信半疑でしたが、先だってある大学の教授から、「5ヶ月ほど学校を休んでいる子がいる。何とかしてやりたい。ぜひ引き受けてくれないか」と依頼がありました。その子の元気な姿は覚えがありますから、やってきた姿を見て、私はびっくりしました。「お父さん、今から連れて帰るけど何にも聞かないで。こんなに調子の悪い子、見たことないよ」と家に電話をし、「こんな子を引き受けてどうしよう」と思いました。

[何が彼らを元気にするのか]
 5泊6日で帰りましてから、すぐその子のお母さんから電話がありました。「どうしたんですか?うちの子、行ったときと顔が全然違う」っておっしゃるんです。本当に悲しそうな顔をしてたのが、「お母さん」って手を振りながら降りてきたって言うんです。「これが5日前に旅立った息子の姿だろうか」と信じられなかったそうです。
 先生からは「あれから学校に出てきてるんだよ。こんなに元気になると思わなかった」、その子の友だちからも、「僕たちがどうしても治せなかった何何君をこんなに元気にしてくださって、お母さん、ありがとう」と電話がありました。私は本当に何もしていない。ほとんど無理強いもせず、それでも元気になってくれました。
 これほどのことはそうありませんが、似たことは度々あります。両親が拒食症の子を、「ここに来た時だけはモリモリ食べる」って連れてきた家族もありました。
 何が彼らを元気にするのかは分かりません。東京や都会にはないきれいな空気を吸って、伸び伸びと自然なものを食べて何日か過ごすだけで、これほどに元気になっていくのかと、思い知らされることが、最近多いです。


[お話しが一番楽しい]
 本当にあるがままの生活を見ていただきながらやっているだけの、私の農家民宿です。それでも本当にたくさんの方の申込みがあります。ですから、投資して改造することも品物を揃える必要もないと思うんです。皆さんの苦しい生活を都会の方にも見てもらえばいい。
 あまり数をお受けできないので、結構お断りします。「安心院には農家民宿が14軒ありますので、電話かけて泊まってみてください。素晴らしいですよ」と申し上げます。7年間やってみて分かりましたことは、「安い宿だ」と思って来られる方と、「本当に行きたい」と思って来られる方は、電話口で全然違います。どうしても来たい人は、お客さんの方が私に合わせてくれます。
 最低3時間は囲炉裏の周りでお話しするようにしています。私の知っていることは料理のことでも何でもお教えしたい。その代わり、来られたお客さんから私も何か一つは得たいと思っています。それが一番楽しいです。

[花火もできない都会の生活]
 田舎ですので、2階に蛍が入ってくることもございます。その蛍を蚊帳の中に入れて、昔私たちが子どもの頃やった遊びをやったり、蚊帳の中から電気を消すのにとても苦労するのを体験してみたり、あるがままの楽しみです。東京あたりだと、花火も隣の人が「危ない」って言ってくるから、できないそうです。

[子どもが「今度いつ行くの?」
 ほとんどが家族連れです。来るお客さんに聞くと、「この夏休みはおばあちゃん家にいつ行くの?もう計画立てておかないと」と言い始めるのは、ほとんどの家は子どもだそうです。他の旅行ではファミコンを持って行くご家庭でも、「安心院に行くときは要らないよ」と子どもから言うそうです。
 ナイフを持って竹とんぼを作る子。竹馬で遊びに行く子。昔そのもの。現代も昔も子どもの気持ちって変わりないんですね。最初は怪我をするんじゃないかと、ご両親がソワソワしていても、何回か来るうちに、子どもも上手になり、親も慣れて心配しなくなります。親も子どもも変わってきます。だから、子どもが「また行こう」って言ってくれるんだと思います。
 私は、「私以上に幸せな方は、この世にあまりいないんじゃないか」と思うくらい、本当に幸せな毎日を送っております。どうぞ、この城端で私みたいな方たちが増えますように、ぜひ皆さん、気軽に始めてみてください。日本中の方たちが「城端に行ってみたい」と思われるような宿を作ってください。楽しみにしております。■




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