情報誌「MyPage」バックナンバー
シーサー ▼巻頭特集-01
事業主体を増やす地域づくり「沖縄の地域づくりの現状と展望から」
新たな時代の地域づくりを考える〜沖縄の地域づくりの現状と展望から〜
 昨年能登で開催した“全国大会”を契機に、石川県地域づくり推進協議会では「持続可能な地域づくり」を目標に掲げた。それを具体化するためのステップとして、当協議会の自立や事務局の民営化を議論する時期を迎えているように思う。
今回の沖縄取材は「事務局民営化の可能性を探る」ことをテーマにした。
 事務局民営化には長所も短所もあるが、民営化議論の基本は「それが地域づくりにとって良い選択であるかどうか」に尽きる。それを判断するための4つの視点を提案したい。

1.

自立性の視点。自立とは決定権を持っている状態のことである。地域づくり団体が県や市町村の意向に左右されず、自立した活動をするために、事務局民営化はプラスに働くのかどうか。
2. 継続性の視点。地域づくり活動が各地で継続して行われ、成果をあげていくために、事務局民営化はプラスに働くのかどうか。
3. 分野横断の視点。地域の課題を解決するには分野横断的な取り組みが不可欠である。多様化、専門化する地域づくり活動や団体を、地域住民や生活者の立場でコーディネートするために、事務局民営化はプラスに働くのかどうか。
4. 協働性の視点。行政、企業、地域づくり団体(地域住民)の協働がなければ、地域づくりは実現しない。しかし、現状はこの三者の交流すら充分に行われているとは言えない。事務局民営化は地域づくりの現場から行政職員を遠ざけることにならないだろうか。
 また、事務局の役割、すなわち、事業の内容についても考える必要がある。総務、営業、広報などの機能が事務局には求められるが、限られた予算で活動する以上は、行政にやってもらうこと、会員団体にやってもらうことなど、構成員の役割分担も考えねばならない。とはいえ、役割を分別できないグレイゾーンにこそ事務局職員の存在意義があるのも事実だ。
 こうした視点を参考に取材ノートを読んで欲しい。(赤須)

赤須さん
◆参加者◆
石原 絹子 (特)コミュニティおきなわ 代表理事
赤須 治郎 赤須企画事務所
高峰 博保 (株)グルーヴィ
石原さん

01-1
■事業展開を

高峰石原さんは、沖縄県地域づくりネットワークでコーディネーターや事務局をされていますが、そもそもまちづくりとの関わりはいつからなんですか。
石原社会福祉協議会に20年勤めた後、10年前に一念発起して、脱サラで琉球大学の大学院に入り、NPOの研究で修士をとった。NPO法がまだ出来ていなかったし、NPOという概念も日本に入り始めた頃でした。
 大学院入学と並行して、「まちづくりコーディネーター人材育成開発」を目的とするNPOを主宰しました。
高峰収入のメインは何なんですか。
誌面石原コミュニティおきなわでのコンサルタントがメインです。住民参画のまちづくり、人づくり、ネットワークづくりが当法人の定款にあり、住民参画につながらないコンサルタントはやらないというのが基本方針です。
 人づくりとはどのようなものかと言うと、市民と行政が協働するための人づくりです。そのプランニングを受けることにより、途中のプロセスで我々も学べるし、事業収入にもなります。それからモデルづくりもできる。人づくり事業に参画したのは3年前からです。
高峰それは地域づくりに関わっていくひとつのビジネスモデルのような気がしますね。事業として持続性のあることをやっていかないと、まちづくりも継続しない。
 地域の中に、そのようなことを仕事とする人が生まれてきて初めて、持続可能な地域が形成されてゆくように思います。

01-2
■テーマ型ネットワーク

石原平成17年度地域づくり団体全国研修交流会・沖縄大会では、「テーマ型ネットワークのあり方」という分科会を持って、そういう思いのある方に全国から集まっていただき、レポートも出したいと思っています。地域経営の視点でネットワークを形成し、人づくりをどうすべきか等、事例を踏まえたレポートをまとめ、県と全国協議会に出そうと思っています。
赤須沖縄県地域づくりネットワークの「負担金」というのはいくらなんですか。
石原県が300万円、市町村が2万円。民間団体は5,000円です。これですべて運営しています。団体数はおよそ100団体。民間と行政と半分くらいの負担です。
赤須アドバイザー派遣2万円というのは交通費はどうなるんですか。離島に行く時は大変なのでは。
石原離島に行く時は、受け入れ側が交通費を負担することになっています。離島の場合は市町村や広域圏事務組合を窓口にして、行政に交通費を持ってもらうケースが多いです。離島は不利ですね。

01-3
■コーディネーターの機能

赤須運営委員は何名いるんですか。
石原17名ですね。事務局を民間に移管した段階で、名前をネットワークに変え、理事も運営委員にしました。運営委員は民間主体にしており無報酬です。運営委員会では当初、お酒を飲みながら自由に意見を出していただいた。
首里城 沖縄県の場合、コーディネーターは県知事嘱託の専門職という位置づけで、離島・振興課に配置されています。課長が事務局長を兼務し、事務局とコーディネーターを監督していた。県の規定ではコーディネーターの機能が情報提供事業になっています。それだとアドバイザーと一緒なんですね。
 私も最初にコーディネーターをする時、「コーディネーターの役割は何ですか」と聞いたら、「わかりません。石原さんのやりたいようにやって下さい」と言われた。コーディネーターの情報交換会に出ても、コーディネーターとアドバイザーが混同されているなと気づいたし、九州ブロックコーディネーター会議でコーディネーターとアドバイザーの違いを提案した時も、誰も聞き入れてくれなくて、「そんなことにこだわる必要は無い」とも言われた。私は違うと思っています。
 アドバイザーは専門的知識をアドバイスする人、一方、相談を受けてコーディネートしたり、あるいは民間と行政をコーディネートしたり、国の政策を民間に投げてあげたり、民間から相談を受けた場合に「こういう助成金があるよ」と教えるのがコーディネーターだと思っています。沖縄県は幸いに専従のコーディネーター1名が嘱託でおり、アドバイザーは10数名登録されています。でも、問題解決まで持っていって「これがコーディネーターの機能だよ」と言ってもなかなか理解されない。
 コーディネーターとアドバイザーと事務局の3つの役割を整理すべき。「それをしないとうまく行かないな」というのが、3年間事務局をしてみての結論です。
高峰機能分担を皆さんに理解してもらわないと動きませんからね。
赤須コーディネーターは今、1人ですか。
石原1名です。各ブロックにコーディネーターを置くとすれば費用の問題があります。県全体で1人の現状が良いのか、ブロックごとに置くのが良いのか。その前にコーディネーターの概念整理をすべきだし、コーディネーターも育てないといけない。どういう風に育てるのか。コーディネーターの募集をどういう基準でするかの明確化も必要です。
赤須石原さんの思いとしては、コーディネーターと事務局は一緒にいた方が良いという考え方ですか。
石原その方が良いですね。
赤須事務局とコーディネーターはイコールなんですか。
石原実際やってみて、かなりかぶる部分があるから、一緒にしても良いと思いました。その方がお金を効果的に使えるとも思う。鳥取はそうしていますよね。

01-4
■事務局の民間化で活性化する

赤須事務局として委託を受けている仕事というのは?
石原委託じゃないですね。覚え書きを交わしている程度です。負担金徴収が結構大変ですね。雑務が多い。調査が来ますし、退会、入会の度に全国協議会にプロフィールを出さないといけない。民間団体は事務局が無いですから連絡が手間取ります。事務管理が大変というのは、やってみて初めてわかった。
 事務局を引き継いだ時は、参加団体の情報も整理されていなかった。2年間かけてようやく整理でき、今では全国協議会の情報と一致するようになっています。
高峰負担金徴収はどうやってなさっているんですか。
城跡石原まず文書を出して、負担金納入が無いと再度文書を送ります。それで来ないとファックスと電話でお願いします。3回やってやっと90%ぐらい徴収できます。未回収も数件出ています。追跡していって、実体が無いところには「どうしますか」と聞いて、退会の手続きをとることもあります。そういうことは業務量として評価しづらい面がある。地域づくりの事務局は、総会と研修をすれば済むという事務局ではない。
高峰アドバイザーが2万円というのも安いですよね。企業人として半日なり1日拘束されたら、どれだけの経費になるかは給与や販管費から計算すれば出ます。今の謝金では、とても仕事としては請け負えない。
石原企業はそうですよね。
高峰一番シビアに詰めておくべきはお金のことです。そこが曖昧だと中途半端なボランティアになってしまう。プロの仕事をするという意識が大切です。
赤須事務局を受ける最初の段階で、「契約」ということにならなかったのはなぜですか。
石原委託金じゃないからですね。県も一会員に過ぎないという位置づけですから、県が出すお金も参加団体と同じく「負担金」なんです。
 事務局を民間に移して変わった点は、活性化したことです。民間が意見を言うようになりました。予算をどのように配分するかについても意見を言います。研修も、以前は基調講演と懇親会であったものが、全国大会の様にプログラムを組んで、ワークショップの手法を駆使して行うようになった。エコツアーなどの体験も実際にしてもらう。このために運営委員が全部ボランティアで動く。コミュニティおきなわもボランティアを募る。研修生100名を受け入れるためにスタッフ30名をコーディネートしないといけない。目に見えない仕事は増えるけど、活性化はする。
 昔はお金をあげて「来て下さい」、今は「自分でお金を出して来て下さい」です。そうすると、よっぽど面白くないと人は来ませんから、県外からゲストを招いて行った。そういうことを工夫して行うと意気が上がるんですね。

01-5
■気付くことが基本

城跡碑石原私が一番お世話になっている新潟の清水さんのやり方は、「教えない」というやり方です。気付くことが基本になっています。人は感じたことしかやらないですよ。離島で漁業をしているような人たちは、身体で感じたことでしか動かない。それはすごくしたたかなことです。そのような人たちを動かそうとするならば、教えようとするのではなく、プロデュースしてあげればいいんですよ。気付き合うというのが私の中では基本です。
高峰それは富山の八尾での体験からも同感です。最初は、観光客は通年では来ないから、観光客相手の商売をしても無理であると多くの商店主から言われたんですが、そこで、イベントの際に試しに違う商売をしてみましょうと、「10日商い」という事業を提案して3年間行ってみていただいた。その結果、売上の上がった店は確実に商品が変わり、店を変えるところも出てきた。中心商店街の商店数も増え、全体の売上増という調査結果も出ています。
 実際にやってみて売上が上がることが実感できれば、自ら変わるということだと思います。私たちコーディネーターの役割はそのようなきっかけを設けることですね。

01-6
■絞り込んだネットワーク

石原私は石川大会に参加した時に、コーディネーターの人たちの考え方が沖縄と合うな、ネットワークできそうだなと思いました。東京だけに向いていないし、基本的な考え方が一緒だと感じたので、沖縄で行う分科会には是非来ていただきたい。
 私はこれまで熊本と新潟に注目して繰り返し交流してきたので、他の県の方とは交流が少ない。
高峰それで良いんですよ。いろんなところに行き過ぎるのは良くない。「これは!」と思うところと継続的におつき合いすることで、見えてくることも多くなるし、お互いに刺激し合える関係になりうるのではないですか。
石原どんなところでもお互いに学び合うことはありますよね。ある意味では反面教師になる面もあるでしょう。石川ともこれでご縁が出来ましたから、継続的におつき合いいただきたいですね。
赤須石原さんが、「石川県に行って沖縄のことをしゃべったらこうだったよ」という話を沖縄でしていただくと、評価が変わる可能性もある。
石原身近な人の話は割と聞かないですが、よその人の話は聞きますからね。
高峰我々ができることの一つは、目に見えるメディアを作り、皆さんが次なることを考える際のヒントとしてご活用いただける情報や素材を残すこと。情報誌の内容はネット上にも掲載されていますから、引用がしやすい。

01-7
■得意分野をつなぐ

石原みんなが万能であればコーディネートする必要はない。どこか足りないからコーディネートする意味があ市場のようするのです。得意分野をつないでいくことで、大きな力にしたり、より深いものを生み出すことが可能になる。基本的にプロデュース能力がないとコーディネートはできない。私はコーディネーターにはそこまでの力がないといけないと思う。
 連絡調整とかつなぎ役とかアドバイザーと混同されたりするけれど、そうじゃない集団を沖縄で作り、県外の人ともネットワークしていきたい。基本的な視点や方針が同じであれば、全国のネットワークを活用して一つの仕事を一緒にすることも可能です。そういう意味で全国のコーディネーター・ネットワークがあれば良い。
高峰全国でいろんなメンバーを集めて、順番にいろいろな地域を回り、それぞれの地域で活躍している人たちと交流したり、現場を拝見する機会を設けられると良い。
石原来年の2月10日、11日には、全国の有志に沖縄に集まってもらいたいですね。
 沖縄にツーリズムに来る人は、自分を見つめに来るんです。「何もないから何でもある」とか哲学的なことを言うんです。沖縄は、万物に神々が宿るという宗教が色濃く残っているところ。ガイドを必要としないソフトを数カ国語で作って、お客様をナビゲーションする方法もあるのではないか。
 もちろん金も儲けないといけないですけど、私たちは地域づくりという視点からのツーリズムなので、どちらかと言うと、この視点で楽しみながらやっていきたい。
高峰地元の人間だけで、「地元が良い」とか「悪い」とか言っていても始まらない。余所の人にも一緒に見てもらい、「ここが面白いんだ」とお互いに実感できるところをクローズアップしたり、育てていくことをしたら良い。その意味では異邦の人が一番良いのではないか。
石原石川のプロジェクトをやるときは沖縄から行って、沖縄の視点で評価し、沖縄のプロジェクトをやるときは石川から来てもらい、その視点で評価してもらう。そんな相互の関わりができると良いですね。
高峰直行便がある地域とは絶対有効なんです。石川県にとっては、沖縄、福岡、仙台、北海道とも、地域づくりやツーリズムの振興のために相互訪問しあう関係を構築していければ良い。
 気に入ったところを紹介するホームページを相互に作るのも良い。例えば、沖縄を紹介するホームページを石川県人が作るとか。由布院でおすすめできるところを紹介したページを個人的に設けているが、ある程度はアクセスがあります。
石原これはニッチビジネスですから、閲覧者数が少なくても良いわけですよね。

01-8
■通訳の必要性

赤須離島の漁師さんは、どうすればしゃべってくれるんですか。
石原しゃべってはいますよ。ただプロデュースする能力が弱いから、プロデュースしてあげれば良い。
高峰間に入る通訳が要るんですね。
海ぶどう石原そうそう、通訳です。
高峰能登半島の宇出津でのミニ食談で、漁師のOBをゲストにして、漁や魚、海などについての話をしていただいているんですが、これが面白いんです。参加者にもお話をしていただくと、地域の食文化、魚文化が浮かび上がってくる。共通の認識も生まれやすい。「フードピア金沢」の当初の食談では、外部ゲストに地元のコーディネーターをつけたが、これも良い効果を発揮してくれていた。ゲストと参加者、お客様と地域をつなぐ機能を発揮していたはずです。
石原今日のような話が分科会でできれば良い。「今度こういうテーマでやるから一緒にやろう」とか、「こういうテーマについて話し合おう」ということが、本当の研修交流会じゃないですか。こういう活動の蓄積が大切なんですね。生情報に値打ちがあります。

01-9
■実践から学ぶ

石原私は自分でやれないことを人に言うのは一番イヤなので、自分がビジネスをしたことがないのにコミュニティビジネスの話をするのは、気が引けるんですよ。自分でやってみて、成功したり失敗したりして話をするのなら自分を許せるんですけど。だから、私は一つでもいいから自分でやってみたい。
 コーディネートしたり、商品やソフトを開発したり、人と人をつなげたり、人を育成したりするのは今の延長ですから、その中で儲かるところは有限会社にすればいいわけです。儲からないところはNPOがすればいい。そういうことを2、3年後にはやりたいと思っています。
赤須石原塾をやればいい。そうしたら、それで基金ができて、ハウスも建てられるのでは。
石原そうです。石原塾をやりますので、いらしてくださいね。
赤須「石原塾に行くと面白い人に会えるぞ」ということになれば、人が集まやすくなる。
高峰先生は全国、全世界から来ているとか。
沖縄らしい民家石原事例研究をしながらレベルアップしていく方法を、マニュアルとして整理したい。事例研究の中で書き込んでいくことによって検証ができ、教えないけど最終的にファクターに気付くというようになればいい。「こういうファクターがあれば成功するんだ」と気付けるような、人材育成プログラムを作りたい。
 これまでは事例紹介で終わっているんですよ。視察研修はこれに終始してしまう。このことを一緒にやれる、「人のネットワーク」を作りたい。全国の地域づくりで商品として使えますよ。
高峰地域づくりだけでなく、商店街の研修会や商工会の事業、農家の研修会などでも活用できます。
石原これだけでも、1つのプログラムとしてテキストが作れます。これまでも事例紹介はたくさんあるけれど、それを人材育成プログラムに結びつけてはいない。だから、そのためのテキストを作ってしまうのです。人材育成プログラムの中の一つとして、これを作っていく研究仲間を作りたい。
赤須石原さんが言われたのは、仮に2、3人で行った時に、その成果を共有する手法です。一人一人の感性でまとめるのではなくて、一緒に事例の成功要因、失敗要因を分析し、しかも共有して帰ってくることが大切です。ぜひ実行していきましょう。

vol.16巻頭特集02 「沖縄県庁取材記」へつづく

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