コモンズとは?まちに開かれた学びの舞台

文化と自然の息衝く町をフィールドワークする「いしかわサテライトキャンパス」。2025年9月、石川県加賀市に訪問したのは、駒澤大学の李妍焱(リ・ヤンヤン)教授のゼミ一行の13名。その結果、「こういう町に住んでみたい」という嬉しい声を学生さんから聞くこともできました。

■研究テーマは「市民的コモンズ」
“ヤンヤン先生”という愛称で親しまれている李教授の研究フィールドは、東京都世田谷区の駒沢大学駅の周辺。大学生を、まちづくりに巻き込むことで、コモンズ形成にどう貢献できるか?を参与観察しています。
このように大学生と住民が繋がる「駒大生社会連携プロジェクト/李ゼミ×駒沢こもれびプロジェクト」の一環で、他地域の商業地におけるコモンズを調査するため、石川県加賀市の温泉商店街と旧城下町へお越しになりました。
■「コモンズ」とは?
直訳すれば「共有財産」。かつては入会地や水源など、地域の人々が分かち合い、維持してきた共同資源を指しました。けれど現代においてコモンズとは、単にモノや空間のことではありません。それは、人と人をつなぎ、新しい価値を生み出す“場”や“仕組み”でもあります。
石川県加賀市では、温泉、図書館、美術館、空き店舗、歴史的建築、伝統工芸などを「開かれたコモンズ」として活かす動きが広がっています。市民団体やNPO、高校生までもが関わり合い、日常の延長にありながらも特別な舞台をつくり出しているのです。
■フィールドワークの概要
なぜ多様な住民が、自然なかたちで協働できるのか?その秘密を探るべく、3つの場を訪問。
・おんせん図書館みかん
・石川県九谷焼美術館
・蘇梁館
にて、地域のキーパーソンたちに根掘り葉掘り質問を投げかけました。
開催日:2025/9/2(火)-9/3(水)
参加者:駒澤大学のゼミ(学生12名/教員1名)
訪問先:石川県加賀市山代温泉と大聖寺地区
コミュニティと成長する、温泉地の小さな図書館。





2020年に開館した「おんせん図書館みかん」は、石川県加賀市山代温泉の空き店舗を活用した私設図書館。店番を担うのは住民。自分たちの楽しめる範囲内で、地域の人々が代わる代わる、自主的にお店番を行うという、アットホームなスタイルが構築されています。
今、日本各地で課題となっている「人口減少と空き店舗」。地域の担い手が減少するなか、住民をプレイヤーとしてうまく巻き込んだ仕組みが、この図書館で育まれています。
場に関わる住民の多様性は、コンテンツの多様性に直結します。事実、おんせん図書館みかんでは、多彩なイベントが住民主体で開催されており、一日限定のカフェ、和菓子販売、ワークショップ、大喜利大会、ファッションショー、古着販売など、その事例を覗くだけでも、さまざまな住民が関わっていることが一目瞭然。
どのようにして多様なプレイヤーを巻き込んでいるのか?をフィールドワークで探りました。
開かれた美術館づくり「石川県九谷焼美術館」





「美術館は作品を静かに鑑賞するだけの場所」──そんなイメージを覆す場が、石川県加賀市にあります。
2002年に開館した石川県九谷焼美術館は、伝統工芸品「九谷焼」の発祥地であることを示す地域のシンボル。文化・芸術を愛する住民たちによる交流が繰り広げられており、ナイトパーティーやコンサート、茶会や絵付け体験、子ども向けの読み聞かせといったイベントが開催されています。
こうした企画には陶芸家、茶道家、商店主など多彩な住民が関わっています。つまり、この美術館は特定の人のものではなく、地域の知恵や情熱を持ち寄る「コモンズ=共有財産」として機能しているのです。
九谷焼や美術館を“地域のコモンズ”としてとらえたとき、その可能性は無限に広がります。
地域の人々が集い、楽しみ、学ぶ場をつくる方法とは?
さらに都会の若者も呼び込み、深い交流を生みだすには?
市民だけでなく、遠方に暮らす人々も巻き込むために、SNSやオンライン会議システムも有効に活用できないだろうか?
学生たちとの話し合いから思い浮かんだのは“IoTを起爆剤に、コモンズを活性化させるアイデア”。たとえば、地域と大学を繋ぐ「オンライン・ゼミ」があってもいいかもしれません。
日本建築で交差するサブカルと伝統





江戸時代の伝統建築が、舞台装置になる場――。
石川県加賀市の「蘇梁館」は、まさにそんな不思議な場所です。伝統建築は単なる保存物ではなく、人々が別の「何者か」になれる舞台として機能しています。
この蘇梁館を運営するのは、NPO法人「たぶんかネット加賀」。1841年に北前船主・久保家が建てた屋敷を移築・復元し、茶会や語学教室、子ども向けイベントなど、地域の誰もが活用できる“コモンズ”として開かれた空間を育てています。高校と駅のあいだにある立地を活かし、ときおり高校生たちも招き入れる仕掛けも根付いています。
たとえば餅つきイベントでは、地元高校生が笑い声をあげ、吹奏楽部が音色を響かせる。ある日には、県外から訪れた観光客がマンガのキャラクターのような衣装に熱中。そこには、日常を超える「もう一つの顔」を生み出す力が宿っています。
高校生からコスプレイヤーまで、なぜ、この伝統建築はここまで多様な若者を惹きつけるのでしょうか。保存と活用のバランスをどう保ち、コモンズとしての生命力を維持しているのか。蘇梁館の事例は、「伝統建築をどう活性化させるか」という問いに、一つのヒントを示しています。
若者が伝統建築で遊び、SNSで拡散してくれる。「いつの間にか、貢献している」そんな、さりげない協働のかたちが仕組まれています。
オンラインで東京と石川を繋いだ、公開ゼミ。


後日、フィールドワークで学んだことを深めるため、公開ゼミが開催されました。
会場は「こもれびスタジオ」。駒澤大学駅から徒歩3分。飲食店やアパレル店が軒を連ねる東京都世田谷区の商業地にあり、ここが李ゼミの活動フィールドです。
当日は近隣住民も駆けつけ、学生たちの発表に耳を傾けました。私たちも石川県チームも、オンラインで出席。
いかにして、市民が能動的になれるか?
立場の異なる学生と近隣住民が、うまく協働するには?
フィールドワークの学びを、世田谷で応用するには?
あらゆる角度から、質問と意見が飛び交う90分。会場は、学びを共有財産にしたコモンズとなり、知をいっしょに創造する時間が生まれました。
地域を学びたい学生が
1日から参加できる
フィールドワーク

いしかわサテライトキャンパス
自然と文化の息衝く石川県で、とことん学ぶ体験を。
温泉地、城下町、里山、漁港、農村、商店街を歩き
わくわくするような学びを掴み取ろう。