片山津温泉 花火|柴山潟で楽しむ湖畔の夏の幻想曲
花火が響く町「片山津温泉」






8月の夜、片山津温泉の夏は、湖面に響く花火の音で幕を開けます。旅館の客室や遊歩道、総湯は人々で賑わっていく。─「花火を最も間近で、体の奥まで響かせて眺められる場所は、どこでしょうか?」
その答えは、屋形船の上にありました。
水面を進む屋形船は、花火がつくりだす幻想世界に入り込む特等席。そよぐ夜風が頬をなで、湖面がさざめく感触とともに、花火の轟音が空に広がる。火の粉が降り注ぐような迫力、山々に反響する音の重なり。客室や岸辺からの眺めでは味わえない臨場感が、ここにあります。
潟と夜空と光が一体となる湖上で過ごすひとときは、何よりも贅沢な体験となるでしょう。
片山津温泉の総湯に浸かれば、湯気とともに花火の光が溶け込み、温かさと涼やかさが交錯する「湯景ファンタジー」に包まれます。総湯は、ただの共同浴場ではなく、住民の日常と季節の風景を映す、町の心臓とも言える存在です。
片山津温泉「柴山潟」が空の色に染まる時、息を吞む光景に包まれる。
片山津温泉の魅力は花火だけではありません。いつの頃からか、柴山潟は「彩湖」と讃えられるようになりました。水面の色が、朝から夕暮れまで刻々と変化することから、そう呼ばれるようになったのです。
加賀市はかつて「江沼郡」と呼ばれ、潟湖や川、湧き水、湿地、水田、温泉といった豊かな水資源に恵まれていました。そんな水の町の象徴ともいえるのが、この柴山潟です。風に揺れる水面、映り込む雲や空の色、そして夕日に染まる湖面──まるでビードロのように光を反射し、穏やかな波が絶え間なく打ち寄せます。

夕暮れ時は、ぜひ「柴山潟の遊歩道」から湖を眺めてみてください。桜並木や田園風景を横目に歩くと、徐々に空が茜色に染まり、太陽が地平線に溶けていく瞬間を目の当たりにします。その黄昏はわずか数分ですが、光のグラデーションが心に深く刻まれ、永遠に忘れられない記憶となるでしょう。
潟の向こう岸には温泉街の旅館が軒を連ね、その灯りが水面にスーッと伸び、夜の静けさと温もりを同時に感じさせます。都市の喧騒から離れたこの地では、空と潟が織りなす景色が、太陽や星の美しさを教えてくれるのです。片山津温泉での湯上がり、柴山潟の黄昏に身をゆだねる瞬間──それは、都会では味わえない贅沢なひとときとなるでしょう。
柴山潟は生き物の楽園

朝、柴山潟に差し込む神々しい光。遠くに連なる山々が朝霧に霞み、湖面は穏やかに波打っています。総湯から車で5分ほどの場所にある片山津温泉湖畔公園。その周辺の地名には「津」「波」「島」といった水辺を連想させる言葉が残り、水への敬意と感謝が暮らしに息づいています。
この潟湖には、コイやフナ、ウナギ、スッポン、テナガエビ、モクズガニなど、多様な生き物が暮らしています。水鳥の羽ばたき、魚の跳ねる音、波のさざめき──それらすべてが朝の静けさに溶け込み、まるで自然のオーケストラのようです。古くから漁や狩猟が行われ、人々はこの地を歩きながら、自然の知恵と生活の知恵を学んできました。そして伝承によれば、柴山潟で温泉が見つかったのも、狩りの最中のことだったといいます。
壮大な潟と温泉の歴史
柴山潟の壮大な歴史は、遥か太古にさかのぼります。かつてここは浅い海や入り江でした。川が運ぶ土砂が海の波に押し戻され、砂丘が形成され、やがて陸地と切り離された潟湖が誕生します。この「海跡湖」は、季節風やモンスーンの影響を受け、長い時間をかけて今の姿となったのです。
柴山潟の近隣には木場潟や今江潟も広がり、加賀三湖と呼ばれました。かつては舟による交通網で繋がり、自然と人々の生活が密接に結びついていました。そして江戸時代の1653年、殿様の鷹狩りの際に温泉が発見され、片山津温泉の歴史が始まります。水資源に恵まれた潟湖は、人々の生活と温泉文化を育む舞台となったのです。
稲作のはじまりと無農薬の米づくりへの挑戦

穏やかな潟湖の周辺には、2300年前の弥生時代から原始的な稲作が伝わっていたと考えられています。湿地帯の恵みを活かした農耕は、やがて上流域や山間部にまで広がり、加賀地方の農耕社会の基盤を形作りました。
現代でも、潟湖と田園、温泉街が隣り合うこの地では、冬には水鳥が落ち穂を食べにやってきます。人が暮らす以前から棲みついた生き物たちの生態を守るため、地元の農家は無農薬・減農薬で米づくりに挑戦しています。波のさざめきと水鳥の羽音に包まれながら、自然と人が共生する暮らしを模索しているのです。

柴山潟は、ただの潟湖ではありません。生命を育む「ゆりかご」であり、温泉文化と稲作の歴史を紡ぐ舞台であり、自然と共に生きる人々の知恵の結晶でもあります。
そんなことを思いながら、無農薬で育てたふっくらご飯の上に、片山津の源泉でじっくり温められた温泉たまごをそっとのせる──その瞬間、口福がとろりと広がるTKGの完成です。