越中八尾散策ガイド
おばあちゃんは
八尾の隠れた有名人

[水上はきもの店]

履く人への思いやりに満ちた手作業に、感動するお客さんが続出。県外からもファンが訪れる、ひそかな名店。編み笠などの八尾土産もあります。
水上はきもの店
富山市八尾町上新町2815
〒939-2342
TEL 076-454-3297
営業時間:8:00〜19:30
定休日:不定休


■この道70年の看板娘
 親からの商売を続けて、自分がもう70年この仕事をしております。生まれだちもここ。下駄屋としては、もう130年くらいになるんじゃなかろうか。父が明治の暮れからだと思います。
 長い間この商売させてもらってるお蔭様で、「ここに行けばある」と思って来てくだされる。感謝しとります。
 今やっているのは、子どもさんの下駄。可愛らしいわいね。親も、「おわらの時、こんなのを履かせりゃ可愛らしかろう」と思うと、親心で買ってあげたくなるんです。緒に柔らかい布を使うと、体裁悪いしすげにくいけど、緒擦れがせんのです。せっかく可愛らしくても、緒擦れしたらなんも履けんからね。

■風の盆見物の方もよく来られる
 鼻緒をゆるめにおいでるお客様に、手間暇かけて直してあげております。お客様から、「目に見えない裏の仕事に、こんなにして貰って」と、とっても喜んで頂いております。
 他所から風の盆を見に来られたお客さんの下駄も、よく鼻緒を緩めてあげるがですよ。大体、草履でも硬くすげてあるのが多いの。そうすると体裁よいでしょう? でも、今のお客さんは和装履きって履かれる機会が少ないから、町まで歩いてくるのも大変なんやね。
 体裁よく鼻緒をすげた下駄を履いて、やっとこさここまで歩いてきて、「あぁ、あったあった」言うて入って来られます。

■手間が掛かるけど元の生地を利用
 ここにある生地を使って、シャッとすげてあげれば手間も時間も掛からないんだけど、皆さんそんな安い下駄で無いことが多いから、この芯を解いて、元の生地を利用してすげてあげようかな、と思うんですよ。分解するのが大変なんですけど。
 それで、「時間かかるで、これでも履いておわら見て来てください。その間に私、直しておきますから」って言うんです。

■お客さんからの言葉で励まされる
 そうすると、男の方ってこういう作業に興味があるみたいで、「オレはおわらより、母ちゃんの作業見てるほうが良い」と、一緒に来ていたお連れさんが戻って来られることがある。それで、「表に出ないこんな仕事に、こんなに手間隙かけているなんて、オレは尊敬するよ」なんていう、商売冥利に尽きるありがたい言葉をいただくんです。風の盆の3日間の間に、何人かそういう優しい言葉をいただきます。
 もう齢も重ねたし、いい加減に商売仕舞おうか、と思うこともあるんだけれど、だけどお客さんからね、そういう優しい言葉いただいて、仕事を持ってきてくだされると思うとね。簡単に止められんな、と思うて、こうやってやっとるんです。

■おわらの縁でお客さんが広がる
 それに、お連れの方が、「あれー、誰それさん良かったね。私がどこそこへ行ったときは、パツッと切って違う布ですげられたから、この草履が普段履きにしか履けなくなってしまった。あんた良かったね」とそういうことを言われることもある。私また、そういう言葉がうれしいんです。「喜んでもらったな」と。
 そんなことがあると、他所の方でもわざわざここで履物買ってくださったり、「今度八尾に行ったら直してもらう」と言って持って来られる。おわらの縁で、こんなわやわやの店を訪ねていただけます。
 普通なら、「ばあちゃん、あっち行け」と言われても仕方が無い年やけど、こんなうれしい商売させてもろうて、感謝しとります。

■八尾らしい建物や庭も話のタネに
 待ってる間に話したり、仲良しになったりして楽しいです。「お手洗い貸して」「どうぞ」と言うと、八尾の家は奥行きが長いでしょう?そこから話が弾んだり、八尾の家なら皆さん中庭があると思うけど、庭をご覧になったり。そんな良い庭でも無いがだけど、都会から来た方には珍しいのでしょうか。
 でもね、そうした方から「風の盆に来たい」って手紙が来ることもあるんだけれど、「どうぞおいでください」って言ったこと無いんです。だって、「そう言われた」って言って来たものの、家の中もどこも満杯のことがあるでしょう。お客さんが大勢でわやわやの状態で、思うように出来ないことが多いから、「来られ」って言えないんです。今でさえ「2階が落ちんか」って心配してるくらいで。

■風の盆はいろんなお客さんで騒動続き
 風の盆のときは、人が多いからいろんなことが起こります。ハンカチ替わりに手拭いを買って、汗を拭きながらお連れと話が変になって、「お荷物の預かり場所に、2〜3時間頼む」と言われたのが、夜遅く12時過ぎに5〜6人で取りに来られ、いつの間にか家の中に入り込んで、奥で寝ておられるのです。
 私は店でお客様の履物を直しておりますし、お疲れになられたのだと、見て見ぬふりをしている間に、「ありがとう、助かった」と、てんでに出て行かれる全くお他人様。
 商売なのか、お客さんの家なのか分からんですが、私のところばっかりでなく、皆さんそんなもんでないですかね。

■時には、おわらの維持費のお話も
 中には、「おわらの会場でお金取られるのが癪に障る」と言う人がおられる。優しい旦那はんもおるけど、「無料で見られると思って遠くから来たのに、儲けやがって」か何か言う人も居られるがでね。
 そうすると私は、「お一人1000円いだたいても、まちは何も儲かってない」ってお話しするんです。「経費が掛かってる。清掃費だがいね」と。
 飲み物やら食べ残しやら置いていってあるのを片付けするのに、ボランティアの方々もどんだけご苦労されているか。この暑いのに汚れて汚れてね。
 そんな話もしながら、下駄ひとつひとつ立てとるんですわ。

店頭でひとつずつ、
根気のいる手作業。





長年愛用してきた
お道具箱と台。




華やかで
可愛らしい
少女たちの
姿を思って



緒ずれで痛くならないよう
肌触りのよい柔らかい素材を使う。













八尾らしい中庭。
できるのを待つ間、
庭を眺めて過ごすのも一興。




ここに座って、いろんな人に出会います。



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