「八尾風便り」web版 その三
2003.07.23Update
胡弓と三味線の音色が聞こえる坂のまち


酒蔵の静けさが八尾の普段の顔なのです
福島さんは東京農大で醸造を学ばれた。歴史ある蔵として「福鶴」銘柄を伝え、一方で地元の文化への誇りから、「風の盆」銘柄を基軸に新たな展開を見せている。伝統を踏まえ、そこに革新的な魅力を与えていく姿がある。

福島 淳さん[福鶴酒造]
福鶴 風の盆 醸造元
福鶴酒造有限会社

〒939-2335 
八尾町西町2352
TEL 076-455-2727
FAX 076-455-2728

プロフィール
福島 淳[ふくしまあつし]

昭和四十三年八尾町生まれ。東京農業大学醸造学科卒業後、酒類卸問屋に勤め、平成四年より家業に専念する。福鶴酒造常務取締役。












竹の櫂が
使われている



店先には
囲炉裏も→

01-六軒の造り酒屋があった八尾の旧町
 ―― 福鶴酒造さんはいつ頃からの蔵なんでしょうか。
福島さん◆一五〇年程前、嘉永元年の創業です。八尾町は酒造りに適したまちだったんですね。昔は江戸時代あたりにできた蔵が六軒ございました。 
 ―― そんな風に盛んに行われていたとは、どういう条件があったんでしょう。
福島さん◆坂のまちと言われるように、坂があるから地下倉庫が造りやすかったことがあります。地下倉庫は温度差がなく、夏場も気温が低く保てます。
 あと、水です。やはり雪国は水に恵まれていますね。

02-八尾の酒は柔らかい
福島さん◆蔵には水の質というのがありまして、硬度・軟度を分析しましたところ、八尾町は極端な軟水なんです。京都も軟水で有名なんですが、酒にすると非常に口当たりの柔らかい、飲みやすいものができるんです。

03-坂のまちの利を生かした酒づくり
 ―― こちらで酒造りに使われる水は地下水ですか。
福島さん◆湧き水を使われるところもありますが、ここの場合は地下水です。八尾は北アルプスからの伏流水にとても恵まれています。
 ―― 地下水が豊富なんですね。
福島さん◆それから、八尾町は昔、和紙や蚕など産業が発達して盛んでしたよね。
 ―― ええ、飛騨街道が回っていて、交易の中継点として栄えたんですね。
福島さん◆井田川、神通川を水路としてみんな船で渡っていたり、生糸でも栄えて人が多く、それだけ酒の需要も多かったという背景もあるみたいです。そんな風に、米があって水がよくて・・・と、酒造りに適した環境にあったと聞いています。
 ―― 交通の要所だったんですね。経済的にも力があって、富山藩の財政を八尾が支えていたとも聞きました。
福島さん◆人口は富山が多いんですが、産業は八尾の方が結構発達していたということです。
 ―― 確かに高山線は真直ぐ行けば近いのに、ぐっと曲がって走っていますね。それだけ、明治以降もまだまだ八尾に経済力があったということですね。

04-有機米の純米酒
 
―― こちらはどんなお米を使っているんですか。
福島さん◆一つは兵庫県から仕入れた山田錦。もう一つは地元の有機栽培のコシヒカリを使っています。従来は「食べて美味しい米は酒造りに適さない」と言われていたんですが、粘りの強い米は、やはり旨味がある。それを活かしながら、有機栽培のコシヒカリ一〇〇パーセントの純米酒を造っています。
 ―― それが、「風の盆」の純米酒ですね。
福島さん◆はい。うちは分かりやすいように、銘柄は全部「風の盆」にしているんですよ。その中に、純米酒や吟醸酒などの種類があるという風にしています。
 平成九年までは「福鶴」が主だったんですが、これだけ風の盆の踊りが有名になってきますと、親しみやすいんじゃないかと、「風の盆」をメインのブランドにしました。でも「福鶴」はおめでたい良い名前ですので、建ちまいだとかのおめでたい席で使っていただいています。
 ――「風の盆」だけに絞られたのは思い切った決断ですね。
福島さん◆そうですね。今まで「福鶴」で親しまれてきたものが変わるということですからね。やはり、「個性を出せるように」という思いと、地元の色をもっと出したかった、ということがあります。

05-酒蔵の泥亀壁
―― 今、「風の盆」で何種類ですか。
福島さん◆九種類です。純米大吟醸を二年間だけ造ったことがありまして、そのときは十種類でした。純米大吟醸はとびきり良い酒が出来たんですが、まだ純米大吟醸というものがあまり浸透していなかったんです。
 酒というものは、毎年必ずしも同じものができるわけではないんです。それに、例えば新しい建物では良いものができない。蔵に目に見えない酵母菌がいるからで、酒造りというのは、何百年前から生きてきた酵母の歴史の中で育ってきたものなんです。
 ―― よく、蔵に菌が棲んでるって言いますよね。蔵のどこに棲んでるんでしょう。
福島さん◆土蔵ですね。昔からの蔵って、土蔵自身が百パーセント泥壁ですよね。藁の泥壁に自然と付くようです。
 今、近代的な大量生産の時代から、手作りに戻ってきています。これから小さい蔵がどう生きていくか。酵母と共に何百年生きてきた蔵の文化をどう守っていくか。これは手作りでしか残っていかないと思っています。

←蔵には
醗酵の神が
祀られる
06-個性の強い酒
 ―― こちらの蔵ではどの位造られるんですか。
福島さん◆最も多く造ったのが、おそらく千三〇〇石。今は大体八五〇石です。
 だけど中身は違っていて、昔は同じものだけ造っていたのが、今は、大吟醸も純米酒も吟醸も純米吟醸もレギュラーも造るという風に、大変に複雑で手間もかかるわけです。しかも、昔なら一升瓶しかなかったのが、小ビン化しているんですよね。造り込みの時期は、十一月から大体四月のはじめまでです。
 ―― 観光客の方の反応はいかがですか。
福島さん◆観光客の方が一番びっくりされるのは、富山県は、全国でも一番辛口の地域だということなんですよ。例えば兵庫辺りはやや甘口が多いもんですから、そういう方が飲まれると、やっぱりびっくりされる。「すごい個性の強い酒や」と思われるんですよ。だから、そういう個性も地元の蔵としてアピールしていきたいなと思うんです。

07-酒蔵の中枢は菌が守っている
 ―― お客さんが立ち寄る場所として酒蔵そのものがどれくらい活用できるか。八尾全体の観光にとって重要な意味があるのかな、と本当は思っているんですが。
福島さん◆思うように見学していただけないのは残念でもあるんですが、一般の方は製造場所にはお入れしていないんです。大きい会社のようにガラス張りですと大丈夫なんですが、開放のところは沢山人が入ると菌も入るもんですから、あんまり歓迎できないんです。麹(こうじ)を作るのは一番大事な工程ですから。
 店舗ゾーンは大歓迎ですので、古い酒蔵の雰囲気を楽しんでいただければと思います。

08-静かな雰囲気で八尾を楽しむ
福島さん◆八尾には風の盆という大きなイベントがあって、「普段はどういう町かな」って思ってもらえる。これは蔵としてのメリットですね。おわらの3日間の賑わいだけでなく、こういう静かな雰囲気があることをアピールしていきたいですね。
[・・・以上、八尾風便り[三](2002年発行)掲載分より抜粋して抄録

聞き手:高峰博保[グルーヴィ]


蔵とアートの
競演



坂のまちアートで
空間が変わる


木づくりの
店先





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