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2003.07.23Update |
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北山さん◆こっちの思うような材料は難しいね。昔買っておいた木で、五十年ぐらい経ってるものもある。二十歳の時に近所の大工さんに分けてもらった。その時点で、だいぶん寝かせてたものだから、およそ一〇〇年近くになる。それでも伸び縮みがあるね。 ―― 木の種類としては何種類くらい使われてるものなんですか? 北山さん◆まずケヤキ、トチでしょ、ナラ、クリ、キリ…、黒柿。その他にスギやマツ材を使う場合もあるわね。一番多いのはやっぱりケヤキとトチだね。あと最近はホオノキをやりだしたね、棗なんかに。 北山さん◆一番の悩みは、木の伸び縮み。漆を乾かすときには、湿り気を調節するために、霧吹いてやる、すると伸び縮みが増えるんです。それが縮むのを待ってから次の漆を塗らんと。漆の欠点はそこだわね。でも、これほど良い塗料も接着剤もないしね。 ―― 今は、漆は日本ではほとんど生産されなくなってきてるんですよね。 北山さん◆今は、ほとんど中国ばかりじゃないかね。でも、漆の良し悪しで言えばやはり日本製。塗膜を形成するウルシオールという成分と、ウルシオールを固まらせるラッカーゼが、日本産には多い。 そしてゴム質が少ないために、漆がすごく柔らかくて、漉しやすいし塗るとき楽。乾燥も早い。乾いてから漆が固くなる。いわゆる締まりがある。願ったりかなったり。仕事もしやすいし、仕上がりもきれい。ところが目の玉がとびでるほど高い。 北山さん◆でも、日本製の漆が良いといっても、それを南方に持って行くとダメなんですね。ラッカーゼが飛び散ってしまって、全然乾かない。やっぱり漆も木も、その土地で育てて取るのが最高でしょうね。 北山さん◆実を言うと、私の父親が木材の売買をやっておったんです。昔の木挽きさん。でも製材所がだんだん出てくると、キリの木を買ってきて切って、下駄屋さんなんかに卸しをするわけだ。 キリの木の価値が決まるのは、目の数。親父の言い当てる木の目の数は、二つと違わんかったね。お客さんが「この木は私が三十年前に植えたんだから、目が三十ある」と言うのに、親父が「いや、これは二十あればいいところや」と。切り倒してみるとやっぱり二十しかない。「経験かなあ?」と。 ―― 以前は、箪笥を作られていたそうですね。 北山さん◆ええ。近所の箪笥屋の人がね、戦後「またやりたいんで弟子に来てくれんか」と言ってくれた。その親方、「こっからカンナかけて、この寸法に切って」と口で言うだけ言って、二、三日プイッと帰って来んのです。こっちは分からんでしょ? 自分で考えないと、どうしようもない。いろいろ工夫してやったことが、今から考えると、かえって有り難かったんだなあ。 北山さん◆その後、八尾に手仕事の会ができ、新しい仕事のやり方を考えていこうとなった頃に始めたのが、棗(なつめ)です。お茶の世界は全然分からない。何派はこの寸法で、こういう形でないとダメと、既成の観念が強くある世界。「知らんから、却って面白いもんができる」と言われてその気になった。 ひねりの形の棗は、茶杓が中心に乗らない。お茶の世界は中心に乗らないとダメだそうです。「中心をちょっと避けたら乗ります」と言っても、こだわる人は買って行かん。「気に入ったからどんな風にしてでも使います」と言うてかれる方もいます。
―― ひねりの形は大変そうですね。 北山さん◆いや、これは八角を隣の面へと接ないでいくと、この形が嫌でもできるんです。そのやり方は自分で考えた。 ところが、ロクロで作った丸いものだと、フタとミをすり合わせて仕上げるのが、八角だとできない。八つのどの角を合わせてもフタが入るように合わせなくちゃいけないから大変です。 北山さん◆店に並んでいる棗は、少しずつ配合変えて、微妙に朱の色を変えてます。全く一緒じゃ、面白みがないもんね。黒はどこまでいっても黒だけど、朱は塗っているうちに色が変わるから厄介だね。この朱も、使いはじめる一週間前から調合始めるんですよ。 北山さん◆例えば呂色漆だと、最後の仕上げだけで一ヶ月くらいかかる。そうしないと、後で肌が荒れてくるんです。どの品でも手順をお話すると、「それだけ手間かかっとるんだったら、この値段ものすごく安いわ」って言われます。 仕入れて売るんだったら分からんからね、話のしようがない。やっぱり作るから話ができる。お客さんとそうやって話をしてると、こっちも楽しい。お客さんも楽しんでくださる。たとえ品もんが売れんでもね、お客さんと話してるうちに、浮かんで気づくことも、いくつもあります。 北山さん◆左手の指先は動かん。この指からこの指まで切ってるんです。四〇〇〇回近く回転する丸鋸(のこ)だから、瞬間だね。ひゃっと撫でただけで、丸太で首を殴られたような感じやった。切れたここ自体は痛くない。首の後ろがバスっと痛かったね。 神経二本切れとるからもう感覚が全くない。しっかり持っとるつもりで仕事しとっても、ポロッと落とすんです。それが悩みだなあ。もうギターも弾けん。昔はおわらの町でギターを製作していたへそまがりです。 北山さん◆昔は桐箪笥とか、箱ものを作るのは全部「指もの」と言うておった。今は、ほとんど家具という名前でひっくるめておるけど、機械のイメージ。戸棚、茶棚、飾り棚、掛け軸の箱とかも「指もの」です。 ―― 今でも、箪笥などの大きいものも作っておられるんですか? 北山さん◆小さいもんだったらやってます。 引き出しでも、名刺入れでも、締まり具合がゆるいのが好きな人と、きゅっと締まる固めのが好きな人がいるんだね。こだわる人は、クククククっと入っていって、三ミリほど残ったところでクッと閉めんと気に入らん。「いや、もっとやわらかくしてくれ」言う人も。 だから、お客さんと徹底的に話をせんと分からんのです。好みが分かってからじゃないと仕事できん。話するのが楽しいしね。からくり箪笥なんかも、話になるしね、楽しんでもらっております。[・・・以上、八尾風便り[二](2001年発行)掲載分より抜粋して抄録] 聞き手:高峰博保[グルーヴィ] |
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