亀の井別荘
「いしり」のもてなし
由布院の亀の井別荘では、ご宿泊のお客様へのもてなし料理に「いしり」を日常的に使っています。
主人の中谷健太郎さんと合原勉料理長にお話をうかがいました。
緑豊かな亀の井別荘

[能登への旅がきっかけで「いしり」を]
──最近、いろんな魚を素材にした魚醤が多いですね。福井では鯛醤を作っています。 亀の井別荘でお食事に「いしり」を使い始められたのは、いつ頃からですか。
中谷健太郎さん(以下中谷)◆20年ほど前から「魚醤が良いのではないか」と、時々使っていました。しかし、メニューに「いしり」としっかり書くようになったのは最近で、醗酵食を研究するために2002年に能登を旅してからのことです。それまでは「魚醤」という書き方でしたね。しょっつるやニョクマムを使っていたこともあります。
──九州の近くであれば、四国のいかなご醤油などもありますが、これもお使いですか。
中谷◆使っていませんね。大分では鮎の魚醤ができましたが値段が高い。しかし、ものすごく上等ですね。作っている親父も自信を持っていたし、それだけのものではある。

[通年で「いしり」を活用」
──「いしり」料理は日常的に出されているのでしょうか?
合原料理長(以下料理長)◆今は、年中出しています。魚は季節の素材を生かしてお出しするわけですが、年間を通じて「いしり」を使って料理しています。夏にはナスも使いますね。
←亀の井別荘で出される「いしり」料理、『地もの茄子のいしり風味焼き』をおつくりいただいた。
能登でも、茄子は伝統的な「いしり」料理によく使われている。やはり茄子は、とりわけ「いしり」と相性が良い素材。
──春はヤマメですか。
料理長◆はい。ヤマメは開いて薄い塩に2時間ほどつけ、半日風干しをした後、燻製を10分ほどかけます。串に刺して素焼きをして、最後に「いしり」を2度塗ります。焼きあがったあとに、香りをつけるために「いしり」をつけるんです。
──香りつけなんですね?
料理長◆これが一番香りがしますから。石川のお客さまが、「懐かしいな」と言われていたこともあります。
大分の日田で作っている鮎の魚醤は、「いしり」のような強い香りではなく、上品な感じですね。言わないと魚醤と分からないほどです。
→香りづけとして「いしり」が使われた焼きもの。「いしり」の香りには、食欲を増進させる不思議な魅力がある。


[記憶に残る食]
──能登に来られた際に食していただいたものの中では、何が一番印象に残っていますか。
料理長◆それは鍋ですね。相性もあるのでしょうが、あの鍋は本当に美味しかった。いまだに覚えています。それと、「べん漬け
(※)」という漬物も印象に残っています。(※注)「べん漬け」・・・大根やワラビ、菜っ葉など旬の野菜をいしりで漬け込む漬物。火に焙って食べるのが、地元での人気の食べ方です。
──さすがに、由布院で鍋に「いしり」を使うことまではされていない?
料理長◆いしり鍋のようなものはお出ししていませんね。

[ゆかりの地域の産物を]
──他の地域の魚醤も使われたことはあるんですか。
料理長◆私は「いしり」だけですね。
健太郎さんのお爺さんは石川の人ということもあって、石川の産物に思い入れがあるようです。「いしり」もそうですし、器に九谷焼を使うのも同じことです。「いしり」は、最初は山中温泉の上口さんから紹介していただいて、能登から仕入れるようになりました。
──「いしり」は調味料として見ると、あくまでもサブ的なものですよね。
料理長◆「少しだけ垂らすと風味が増す」と添付のシオリなどに書いてありますよね。イカなどを調理するには合うと思いますが、白身魚だと強すぎるかもしれませんね。
和食は塩と醤油と甘味が基本ですから、同じような味になりやすい。しかし、そこに「いしり」を加えると目先が変わります。「いしり」を料理に使うのは、やはり香りが大切な要素になっていますね。

(インタビュアー/高峰 博保)

亀の井別荘 大切なお客様へのもてなしに「いしり」を使うのは、「いしり」独特の香りの良さが決め手になっているとのご評価をいただくことができました。全国から多くのお客様を集めている亀の井別荘で、「いしり」は旅の記憶を印象的に彩る名脇役として活躍しています。



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